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時折マンガの話をします。

今年のマンガを振り返る対談(独りで)・本編その2

序論・ならびに本編その1の続きになります。


k:じゃあ続き始めるか。そろそろ少女マンガから離れて、別のやつに行く?
m:幾つか出し忘れがあったので、もう少しだけそのまま行かせてもらおうかと。小玉ユキさんの『坂道のアポロン』と西炯子さんの『娚の一生』です。後者は本編後のエピソードを集めた4巻ですね。『坂道のアポロン』も、本編もさることながら番外編を集めた「BONUS TRACK」が実に良かったです。


坂道のアポロンBONUS TRACK (フラワーコミックスアルファ)

坂道のアポロンBONUS TRACK (フラワーコミックスアルファ)

娚の一生 4 (フラワーコミックスアルファ)

娚の一生 4 (フラワーコミックスアルファ)


k:あぁ、あれは良かった。『坂道のアポロン』は、もしアニメしか観ていないという人がいるなら、本編最終巻とBONUS TRACK は是非読んで欲しいな。終盤の展開、原作でもやや駆け足な印象があったんだけど、アニメ版は輪に掛けて駆け足になってしまって、大学編がほぼ全カットに近かったからな。
m:重要な伏線が、大学編で回収されたりもしていますしね。番外編だと、本編最終話の後日談エピソードが、いち読者の淡い期待を見事に掬い上げてくれるような、珠玉の出来だったと思います。『娚の一生』も、沁み入るような話がありましたね。
k:「spin-off 6 男の一生」が素晴らしかった。海江田教授の複雑な生い立ちに関わるエピソードなんだが、後半、殆ど台詞を使わず、動きを表す線やオノマトペも使わずに情景・人物描写を重ねていく箇所があるんだ。それでも、海江田の慟哭が聴こえるようだった。
m:「spin-off 2 まことの家」のエピソードも生きてきますよね。


k:じゃあ、そろそろ少女マンガからは離れるか。
m:まだまだ面白かった作品はありますが、キリがなくなりますからね。じゃあ、次はどういった切り口でいきましょうか。
k:そうだな、序論で触れた、ランキングから外れてしまいがちな作品群とか、雑誌から選んでみるか。
m:そうなると、序論の繰り返しっぽくなってしまいますが、まず何よりも先に挙げないといけないのは羽海野チカさんの『3月のライオン』ですね。・・・8巻読みました?


3月のライオン 8 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 8 (ジェッツコミックス)


k:読んだ。棋匠戦のエピソード「焼野が原」はもう10回くらい繰り返して読んでいる。・・・震えたよ。どうすればここまで強い物語を描くことができるのか、と思った。
m:この巻の表紙を飾っている柳原棋匠の心象風景が、只々圧巻でした。自らを縛り付けてきた夥しい数の「たすき」がほどけ、どこか彼方へ消え去ろうとする瞬間、それを掴み取り、たぐり寄せる。その際の表情と魂の叫び。これまでに受け取ったものを背負い続ける覚悟。羽海野チカさんは、どこまでも真っ直ぐに、真摯にキャラクターに向き合い、渾身の力で描き抜いていると思います。
k:ほんとうに、何で『このマンガがすごい!』にランクインしなかったのか判らないな・・・。
m:昨年5位にランクインしているから、でしょうか・・・。実情は判らないにしろ、『3月のライオン』は『デビルマン』や『あしたのジョー』、或いは『DRAGON BALL』や『SLAM DUNK』のように、10年20年経っても話題になり得る、そんな力を持つ作品だと思います。


k:じゃあ次は、顧みられづらい雑誌に掲載されている作品を取り上げてみるか。
m:まぁ何度も触れているように、自分は単行本派なのであまり大きなことは言えませんがね。あとこれまた個人的な嗜好になりますが、数々の陰謀が渦巻く群像劇が好きなんですね。そういった観点からですが、おがきちかさんの『Landreaall』、久米田夏緒さんの『ボクラノキセキ』、遊行寺たまさんの『+C』が良かったです。どれも「ZERO-SUM」になりますね。


Landreaall 20巻 (ZERO-SUMコミックス)

Landreaall 20巻 (ZERO-SUMコミックス)

ボクラノキセキ 7巻 (ZERO-SUMコミックス)

ボクラノキセキ 7巻 (ZERO-SUMコミックス)


k:正確に言えば、『ボクラノキセキ』は「ゼロサムWARD」になるな。あと『+C』はつい先頃完結したっぽい。今月末に出るのが最終巻かもしれないな。
m:『ボクラノキセキ』は前世の記憶と能力が突如覚醒してしまった少年・少女たちの物語ですね。些か大雑把に過ぎる説明ですが。誰もが前世の出来事の全貌を把握してはいなく、ミステリー的な要素もある。『僕の地球を守って』の系譜とも言えそうですね。あとの2つは純然たるファンタジーものです。王宮とかそれに近い場所で、数多の思惑が絡み合いつつ物語が進んでいくのが魅力ですね。
k:陰謀渦巻くと言えば、あの作品も外せないな。陰謀というよりは策謀か。
mカトウコトノさんの『将国のアルタイル』ですね。あれは「シリウス」で連載されている作品ですが、あの雑誌もあまり陽の当たらない印象が強いです。今年は西野マルタさんの『五大湖フルバースト』という怪作がありましたが。余談にはなりますが、しばらく前に少しだけ、西野マルタさんとお話する機会があったのですが、あの肉弾劇画の印象とは真逆に見える静かな語り口で、しかし奥底には燃え上がるようなマンガへの情熱を抱いている方だ、という印象を受けました。やはり『五大湖フルバースト』の作者さんなのだな、と。


五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)

五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスKC)

将国のアルタイル(11) (シリウスKC)

将国のアルタイル(11) (シリウスKC)


k:自慢話はその辺で切り上げてもらって、『将国のアルタイル』の話に戻すぞ。強大な武力を背景に隣国への侵攻を続けるバルトライン帝国宰相と、それを食い止めんと東奔西走するトルキエ将国の将軍・マフムート。この顔を合わせたこともない二人が、互いに知略を尽くし国の存亡を懸けて戦う姿が実に魅せる。
m:そう言えば、先程挙げた『+C』と『将国のアルタイル』、どちらも主役が美少年で、しかも作中で何回か女装を披露していますね。そういった方面に対しては・・・
k:それは副次的なものに過ぎない。そう、それが目的という訳では断じてないのだ。偶然の産物だ。


m:何か微妙に切羽詰まったものを感じたりもしましたが、恐らくは気のせいでしょう。・・・他にはどんな雑誌が取り上げられづらいでしょう?出版社・ジャンルとかでも構いませんが。
k:そうだな。・・・出版社だとマッグガーデンとか、ジャンルだとコミカライズ、オヤジ系作品、4コマ系といったあたりかな。他にもいろいろあるだろうが、全て扱うには俺はマンガを知らな過ぎる。
m:じゃあ順に考えていきましょう。まずはマッグガーデンの作品から。天野こずえさんの『あまんちゅ!』、古日向いろはさんの『バガタウェイ』、そして水上悟志さんの『戦国妖狐』、この3作品が強いですね。


あまんちゅ! 5 (BLADE COMICS)

あまんちゅ! 5 (BLADE COMICS)

バガタウェイ 8 (コミックブレイド)

バガタウェイ 8 (コミックブレイド)

戦国妖狐 10 (BLADE COMICS)

戦国妖狐 10 (BLADE COMICS)


k:『あまんちゅ!』は、というか『ARIA』のときにもあったが、時折描かれる陰を感じるエピソードがあるよな。それが作品全体を引き締めているというか、癒し系一辺倒ではない深みを出しているように思う。
m:てこがネガティヴモードに突入してしまうあたりとか、怪談みたいなエピソードとかですね。
k:あと『バガタウェイ』。ラクロスに青春を賭ける女子高生の姿を描いた作品だ。ひたむきに競技に打ち込む姿が実に眩しく、読んでいて心地いい。あと、ラクロスというかなりマイナーな部類に入るスポーツを題材にしても高いレベルのエンターテインメントとして成り立つところに、マンガの奥の深さを感じたりもする。
mカバディのマンガも存在しますからね。あとはクリケットとポロですかね。ペタンクもまだですか。
k:さすがにそれのマンガは難しいんじゃないか。話を戻して『戦国妖狐』だけど、水上悟志さんが描こうとしているものは一貫しているように思う。『惑星のさみだれ』のときもそうだったと思うんだが、「人間の強さ」を常に描いている。登場する・或いは敵対するキャラクターが超能力の使い手であったり人ならざる者であったり、果ては神仙の類であったりする故に、ひときわそれが際立っている。
m足利義輝の最期は、まさしく「強さ」を感じさせるものでしたね。あとは月湖がどう成長していくのか、それも愉しみです。


k:じゃあ、次はコミカライズ作品いってみようか。
m:う〜む、何か自ら首を絞めているような気分です。自分より詳しい方、近しい人だけでも相当いますからね。山本ヤマトさんの『紅 kure-nai』と、石田あきらさんの『まおゆう魔王勇者』かな。


紅kureーnai 10 (ジャンプコミックス)

紅kureーnai 10 (ジャンプコミックス)


k:『紅 kure-nai』は、原作ライトノベルイラストレーターがコミカライズも担当した珍しい例だな。最近は少しずつ増えてきているのかな。角川ビーンズ文庫の『王子はただいま出稼ぎ中』とか。それは未読なので脇に置かせてもらうけど、『紅 kure-nai』はたぶん、原作がストップしてしまったのにオリジナル展開で完結を迎えたという点でも珍しい作品だと思う。
m:幸福なコミカライズ作品だったと言える気がしますね。そしてもう一つの『まおゆう』ですが、『紅 kure-nai』がオリジナル展開をしていったのに対し、こちらは長大な原作を、実に丁寧に、忠実にコミカライズしています。間違いなく、非常に原作を読み込んでいる。作者さんの原作に対する敬意を感じます。
k:膨大な登場キャラクターが、原作を読んだときのイメージに実に近いんだ。前半最大の山場とも言えるメイド姉の演説、ネットで読んだときの気持ちの昂りをもう1度体験できたな。
m:その演説のことを後で知ったまおー様の台詞がまた良いんですよね。今月末発売の新刊で掲載されるのかな。
k:まだ序盤といったところだが、最後まで描き切って欲しい作品だな。
m:アニメも来月から始まりますし、今後も期待の作品ですね。ネットで話題になってから瞬く間に書籍化・ドラマCDに朗読劇・コミカライズに遂にはアニメ化と、まさしく怒濤の勢いです。・・・そうだ、一昨年の5月、まだネットで話題になり始めてそれほど時間が経っていない頃に書いた感想記事のリンク貼っておきますか。


k:だから宣伝は結構と何度言えば判るんだ。
m:まぁまぁ。それにしてもまた長くなってきましたね。残るはオヤジ系・4コマ作品となりますが、これは次回としましょうか。次で完結といきたいところです。

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