マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

「季刊エス」2013年1月号(vol.41)が異彩を放っている

自分は基本的に雑誌をあまり購入していません。
主に物理的・空間的な理由ですな。早い話が「場所がない」。単行本だけでも自炊に踏み切らざるを得ない状況なので、更に場所を取る雑誌には手が出せないという訳です。


そんな中で購入している数少ない雑誌が「季刊エス」です。


「ストーリー&キャラクター表現の総合誌」という触れ込みの雑誌でして、毎号何らかのテーマを設けつつ、その趣旨に合致した、或いは添いつつも話題となっている(正確には、その号が発売された時期に話題となっている)マンガの作者・アニメの監督・スタッフへのインタビューを行ったりしています。
他にも映画(邦画・洋画問わず)の監督インタビューだとか、写真家・海外アニメーション監督の紹介・対談だとか、球体関節人形の写真掲載もある。キャラクターメイキング講座的なコーナーや読者投稿も充実している。
雑誌の中核を成すのはインタビュー記事ですが、相当にその作家さんの作品を読み込んだ上で対談に臨んでいるのが判る内容で、かなり濃い、読み応えのある記事となっています。
資料性も高いと思われ、それもまた定期購読している所以とでも申しましょうか。


そんな「季刊エス」の最新号が先日発売されました。
2013年1月号、41号となります。


季刊S(エス)2013年01月号(41号)

季刊S(エス)2013年01月号(41号)


今号のテーマは「動物百科」なのですが、これまでの号と比べるとかなり異彩を放っている印象がありましたので、ちょっとご紹介しておきます。
どんな雑誌でもそうでしょうが、雑誌の構成にはある程度のテンプレートがあるように思います。これまでの「季刊エス」であれば、テーマに添った(且つ話題の)作品の作者・スタッフへのインタビューが何個か続いて、小野耕世さんが聞き手の海外クリエーターとの対談、球体関節人形関連の記事・・・と、上に書いた特徴がだいたいその順番で構成されている。
それが、最新号ではかなり様相が異なっている訳です。


特集ページの最初が、見開き全て動物のモノクロ写真で埋まっています。
次のページは、海外絵本の動物挿絵・挿絵画家の紹介。
その次のページは、見開き全てがメリーゴーランドの写真。
更に次のページは、サーカス(動物曲芸)の写真やイラスト。
続くのは民芸品や郷土玩具の写真の数々。


そして江戸時代の画家・伊藤若冲の動物画や浮世絵師・歌川国芳の戯画、更にはお菓子のパッケージやマッチラベルに描かれた動物に焦点が当てられたり、見開きでペンギンの群れの写真や剥製の写真が掲載されていたり、かと思えば絶滅した動物の写真・イラストと併せて絶滅に至るまでの経緯を解説したやや社会派(?)的な記事もあったり、その後でイラストレーターの方々や『へんないきもの』の著者・早川いくを氏へのインタビュー等があり、その後ようやく荒川弘さんへのインタビュー。


せいぞろい へんないきもの-世にも奇妙な生物グラフィティ

せいぞろい へんないきもの-世にも奇妙な生物グラフィティ


これまでであれば一番最初に来てもおかしくない荒川弘さんのインタビューの掲載ページが64という時点でかなり異色の構成と言える気がしました。
因みに郷土玩具に関しては、こちらで貴重な記録が公開されているとのこと。

お菓子のパッケージについては、こちらの店のものらしいですな。


どちらも良い味わいのイラストですね。
あと伊藤若冲歌川国芳については、専門書・研究書も多数ある訳ですが、雑誌の中で触れられていない本だとこちらが詳しいでしょうか。


奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

江戸絵画史論 (1983年)

江戸絵画史論 (1983年)


歌川国芳に関しては、岡田屋鉄蔵さんがマンガの題材にもしていますね。


ひらひら 国芳一門浮世譚

ひらひら 国芳一門浮世譚


と、註釈じみた話はこの程度にしておいて、これまでとは違う方向性へ舵を切ろうとしているのはひしひしと伝わってくる。
それもその筈、編集後記にこのような記述がありました。ちょっと引用しておきます。

エスは10年目を迎えて、これからリニューアルしようと考えています。まだ暫定的な段階ですが、まずはいろんなジャンルからビジュアルを集める百科的なギャラリーをお届けしていきます。昔は幅広いビジュアル誌があったものですが、現在カルチャー誌は縮小の一途。残存する雑誌もアニメや漫画の特集が増えて、昔とは様変わりした状況です。今、エスはいろんな種類のビジュアルを何でも呼び込み、刺激が生まれないか模索する試みを始めます。


(「季刊エス」2013年1月号189ページ。)


その模索を始めたのがこの号であり、結果として(これまでの構成に馴れていた身としては)異色と感じる内容であったということですな。
個人的には極端に狭いジャンルで固まるのはあまり好みではないので、こういった新しい刺激を取り入れる試みは愉しみであったりします(かく言う自分はマンガばかり読んでいたりする訳ですが・・・)。
次回の特集が「女体百科」であることも含め、今後の動きに要注目といったところでありましょう。


といったところで、本日はこのあたりにて。