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時折マンガの話をします。

三条友美の異様な世界:或いは前提が歪んだグロテスクな純愛ホラー

些か遅きに失したという感もありますが、この作品について触れておこうと思います。



三条友美先生のホラー作品集『寄生少女』です。*1
購入したのは発売直後ですが、いろいろと立て込んでいてこんな時期にまで感想?を書くのがずれ込んでしまいました。不徳の致すところですな。


YouTube の広告動画も貼っておきます。



『寄生少女』は、2005〜2010年にかけて「ホラーM」に掲載された三条先生の作品のうち、内容・描写の過激さ故に単行本に収録されなかった作品を集めた未収録作品集となります。更には描き下ろしに、解説・対談も収録。


『寄生少女』に収録された作品、基本的にはおかしいです(賛辞)。
どこがおかしいかというと、作品世界の前提条件とでも言いましょうか。それを端的に示している箇所を、1つだけ挙げてみます。



三条友美『寄生少女』148ページ。)


作品解説においても「超問題作」と評されていた*2『彼氏はケダモノ』の冒頭になります。何もかもがおかしなことになっているのがお判りかと思います。フォントが無闇にポップなのもおかしいです。
基本的にはこのような、前提条件から歪んでしまっているグロテスクな世界で、物語の主役となる少女*3は、異形の存在を疑問なく、純粋に愛するのですな。それが破滅への一本道であろうとも、自ら望んでそこへと突き進んで行く。


狂気と純愛が混ざり合って異形へと変容したかのような、兎にも角にも異様な世界が繰り広げられます。
そんな作品が12作品収録。読み切るにはそれなりのエネルギーが必要かと思います(蟲系の描写が苦手な方は特に)。しかしながら本の帯にあるように「誰も見たことのない世界」へと誘ってくれる作品であるのも確かです。ご興味のある方は是非ご一読を。



・・・と、読むための手段とかについても触れておく必要がありますね。
『寄生少女』は、いわゆる同人誌です。
三条先生の作品に惚れ込んだなめくじ長屋奇考録管理人のげウさんが、独自で出版レーベル「おおかみ書房」を立ち上げて制作・販売をしています。

他にはタコシェさんやまんだらけさんでも委託販売していますね。


『寄生少女』発売に至るまでの経緯は、編集協力をされた白取千夏雄さんのブログ記事に詳しいです。


何としても本で出したいがために自分で出版レーベルを立ち上げ、交渉諸々も自ら行う、まさしくブロガーの鑑でありますな。自分にはちょっと真似できないです。
そしてこの「おおかみ書房」の立ち上げには、げウさんの理念(みたいなもの)が一貫していることと、サイト管理人として彫琢を重ねていったプロセスも同時に見て取れる。


6年くらい前になりますか、局所的かもしれないですが熱狂的な支持を集めた『任侠沈没』っていうマンガがあります。


任侠沈没 (1) (ニチブンコミックス)

任侠沈没 (1) (ニチブンコミックス)


この作品の連載時、熱烈なレビューをしていたサイトのひとつがなめくじ長屋さんなのですな(当時はブログではなく、ホームページでした)。エロ劇画レビューをやるより前だったと思います。


自分がなめくじ長屋さんを知るきっかけになったのも、『任侠沈没』レビューです。
そしてこの作品が終了した直後、げウさんはサイトで「連載再開署名運動」を始めたのですよ。そして集まった署名を、実際に日本文芸社に送っている。



この頃から、「このままでは消えてしまう傑作」を残そうとする姿勢は一貫している訳ですな。
残念ながら連載再開はならなかったものの、後年Vシネマにはなっていますね。


任侠沈没 [DVD]

任侠沈没 [DVD]


そして現在は、自ら作者さんと交渉を重ね、自分が立ち上げたレーベルで、商業誌と比べてまったく遜色のないクオリティで作品を出版している。凄まじいですよ。


さて、そんな『寄生少女』について、このようなお願いが。


痛切なまでのお願いとなっています。
確か現時点(2013年4月1日)で700部以上は売れているようですが、もう一押しあれば間違いなく残る12作を読むことができる。次に繋げるために、是非とも買って欲しいと思います。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:記事タイトルは語感の都合上、敬称略とさせて戴きました。

*2:三条友美『寄生少女』202ページ。

*3:ホラーM」が女性が主な読者層であるためか、そして三条先生の嗜好もあるでしょう、例外なく少女が主役です。