マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

水樹和佳子さんの新たなるチャレンジ

水樹和佳子さん、ってご存知でしょうか?
或いは水樹和佳、というお名前で憶えている方も多いのでしょうか。


名作マンガを幾つも描かれた方です。代表作は『樹魔』『伝説』『イティハーサ』あたりでしょうか。『伝説』と『イティハーサ』で、優れたSF作品に授与される星雲賞コミック部門を受賞していますね。
これらのタイトルを含む多くの作品が、現在ハヤカワ文庫に収録されています。


とりわけ、『イティハーサ』が見事な作品なのです。


イティハーサ 全7巻

イティハーサ 全7巻


完結までに13年くらいの年月を費やした大作であります。舞台となるのは今から12000年程前の古代日本。真言告(まことのり、言霊を操る呪術みたいなもの)や「目に見える神々」が存在する世界です。そして「目に見えぬ神々」もまた存在する世界。
「目に見える神々」には平和を尊ぶ「亞神」と争いを嗜好する「威神」が存在し、彼らとその信徒は互いに反目し、対立しています。2つの陣営を縦軸に、神々に付き従って生きる人々の姿や(恋愛も交えた)人間模様が、そして何故神は存在するのかといった内容も描かれます。


そしてこの作品、登場キャラクターも軒並み魅力的で、主役(鷹野)・ヒロイン(透祜)を凌駕する存在感を放つ人物も少なくない。とりわけ、鷹野と透祜の兄的な存在であり、独自の哲学を持つ真言告の使い手・青比古、青比古に想いを寄せる桂、威神の首魁でありながら複雑な感情を垣間見せる鬼幽様あたりは圧倒的です。
そして真言告という、「言葉」が舞台装置として用いられていることも要因のひとつでありましょう、あらゆる台詞が彫琢を重ねられている。それ以前の作品にも言葉・言語へのこだわりは見える訳ですが、この作品でひとつの極に達した印象があります。


この『イティハーサ』、「ぶ〜け」に連載されていたのですが、誌面の方針変更に伴い打ち切り宣告。納得のいく終わらせ方をするために、最後の2冊は単行本描き下ろしという、非常に珍しい発表形式となっています。水樹和佳子さんの執念といいますか、この作品にかける想いが垣間見えますね。
ほんとうにこの作品は名作なので、是非読んで戴きたいです。



ただ、この作品を完結してから、水城和佳子さんの活動が極度に減ります。
2006年始めですか、久し振りの単行本『グレイッシュ・メロディ』が刊行されますが、それを最後に長い沈黙が続くことになります。


グレイッシュメロディ (ジェッツコミックス)

グレイッシュメロディ (ジェッツコミックス)



今、何をやっているのだろうか。そんなふうに考えていた訳ですが、昨年の11月下旬、twitter を見ていたところ、予想外の情報が流れてきました。
水樹和佳子さん、twitter を始めていたのですね。


プロフィール欄を見てまた驚きました。
「小学校からの夢だったフラワーデザイナー(自称)になっちゃいます。」とあります。そして数日後、ショップサイトとブログも開設(ブログはサイトの数日前に開設した模様)。


プロフィール欄とか過去記事とかを調べたところ、何でも中学生頃から華道を習っていて、師範の資格もあるとのこと。*1
更にはここ数年、洋風フラワーアレンジメントの勉強も行い、インストラクターの資格を取ったとのこと。それを機に、ショップを開設の運びとなった模様です。


サイトを見ると、1月22日時点で30以上の作品を制作していますね。
和と洋の融合を指向しつつ、時折作品に登場する「ゆるうさぎ」に、マンガ家時代の名残を感じたりもします。


マンガをまた描く可能性は薄いようなので、そこに一抹の寂しさを憶えたりもしますが、それはそれとして、水樹和佳子さんの新たなチャレンジ、応援していきたいですな。
そして水樹和佳子さん、既に還暦を迎えられている筈なのですが、それでいてなお新しいことに挑戦していく姿勢、見習いたいものであります。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:wikipedia によると、「古流松庭派の教授有資格者」とのことです。