マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

マンガにおけるフォント表現事例

ここしばらくの間、更新が滞り気味な訳ですが、相変わらずマンガは読み続けています。
そして最近改めて感じることが、マンガの文字表現、と言うよりはフォントの表現でしょうか、それがずいぶんと多様になってきているなという点です。
比較的最近読んだ作品の中にもそれを感じさせてくれるものが幾つかあったので、3つほどご紹介しておきます。


【事例その1】



(中村ゆうひ『週刊少年ガール』1巻46ページ。)


まずはこちら、最近1巻が出た『週刊少年ガール』から。
この作品はオムニバス・一話完結型のラブコメ作品なのですが、毎回設定が独特でして、SF的であり且つマンガという表現型式を巧く使っている作品でもあります。
上で挙げたコマは第4話「思いがあふれて」の冒頭で、あくびをしている女の子がこの回のヒロインになります。
この子、恐らくは「おはよーまだ眠いよ」くらいのことを言っているつもりなのですが、タイトルどおりその思いが溢れかえってしまって、それを意味する大量の台詞がひとつのフキダシの中に重ねて書かれているので上のコマのような惨状となっている訳です。解読も試みてみましたが、僅かに「おはよー」と「春眠暁」の文字が読み取れたくらいで断念しました。
そしてこの回はこのような台詞?のまま最後まで話が進む訳ですが、どういう結末を迎えるかは読んでのお楽しみということで。このエピソードに限らず、この作品はお薦めです。



【事例その2】



仲村佳樹スキップ・ビート!』34巻18ページ。)


次は『スキップ・ビート!』です。もう34巻になるんですね。カイン・ヒール編、ずいぶん長丁場になっています。
このエピソードでは俳優の敦賀蓮がカイン・ヒールという人物、そしてヒロインのキョーコはカインの妹・雪花(セツ)という人物になりきって(ごく一部の関係者を除き、蓮とキョーコであることも知らせずに)撮影を行っています。そしてキョーコは蓮に想いを寄せている訳ですが、それをひた隠しにして、誰にも知られないようにしている。
しかし撮影現場で不意に蓮に抱きしめられてしまったとき、素の部分が出てしまい、その瞬間を事務所の社長に目撃されてしまいます。そして社長から呼び出しを受ける。
それがバレたのは仕方ないとして、せめてそれを蓮には伝えないでもらうよう、取引はできないかといろいろ思案を重ねたものの思い付かず、そのまま社長室に入ることになってしまった場面が上のコマです。


キョーコの独白、「私まだ有力な脅迫...取引条件思いついてな」の「迫」の字が少し消えかかっているのですね。ルビは「きょうは」で止まっています。つまりこれまでの一般的な書き方としては「脅は...取引条件」だったものを、「迫」の文字を少し消すことで同じ意味を表現しているということです。地味ながらも実に巧みな表現だと感じます。



【事例その3】



坂本眞一イノサン』4巻21ページ。)


ルイ十六世やマリー・アントワネットフランス革命期の重鎮の処刑を手掛けた死刑執行人シャルル-アンリ・サンソンの生涯を描く『イノサン』。個人的に最近イチオシの作品でもあります。
上のコマは、国王ルイ十五世暗殺未遂で逮捕されたロベール-フランソワ・ダミアンに「八つ裂きの刑」が執行される瞬間です。この作品内においては、サンソンとダミアンの間には既に信頼関係に近いものが存在しており、サンソンは慈悲の精神を携えつつこの大掛かりな処刑に臨みます。*1それを理解したうえでの、ダミアンの台詞。「さあ 俺っちを早くつれてってくれ...」の「あ」と「く」が反転しているのですね。
イノサン』の4巻は、半分以上がダミアンの八つ裂き刑の描写に充てられている訳ですが、3巻最後の時点で、既に長期にわたる拷問に加え処刑場では灼いたペンチで肉を剥がれたり硫黄を掛けられたりと、既に死は目前に迫っている状態です。そういった半死半生、半ば意識も混濁しかけているであろう状態を、文字の反転で表現している訳です。*2



以上3つ。
この他にも、家のどこにあるか判らなかったので画像が使えませんでしたが(実家に送ったかも)、杉基イクラさんの『ナナマルサンバツ』で、文字を半分斜線で切って下半分を空白にすることで、「クイズの問題途中まで読んだ時点でボタンが押されている」ということを表現していたりもしましたね。
デジタル化が進んだことで「文字そのもの」にも加工がしやすくなったこともあり、こういう表現が徐々に広がりを見せてきている訳ですが、もうしばらく時間が経てば、スクリーントーンの表現と同じくらいには、文字の表現が一般的なものになるのかもしれないな、とか考えたりします。


といったところで、本日はこのあたりにて。


週刊少年ガール(1) (講談社コミックス)

週刊少年ガール(1) (講談社コミックス)

スキップ・ビート! 34 (花とゆめCOMICS)

スキップ・ビート! 34 (花とゆめCOMICS)

*1:八つ裂きの刑の執行じたいが、このダミアンの処刑で実に147年ぶりの執行なのだとか。

*2:もちろん絵による描写が最たるものだというのは言うまでもありません。