マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『ニセコイ』のフキダシ

今回は『ニセコイ』の話です。
普段自分はあまりジャンプ作品とかラブコメの話はあまりブログに書いたりはしない訳ですが、まぁそれなりには買ったり読んだりしている訳でして、『ニセコイ』も集めている作品の1つです。


世間的には小野寺さんが最も人気が高いようだが君たちは何も判っていない至高のヒロインは鶇誠士郎であろうビーハイブが開発した謎薬品をうっかり飲んでしまいその効用に振り回される際に垣間見える鶇の愛くるしさにひれ伏すのだそしてまた一条楽を意識してしまったときにまるで隠し切れず滲み出まくっている恋慕の感情と恥じらいの表情は磨き抜かれた宝石にも比肩するものだまぁしかし最新12巻に収録された第101話「ケーキヤ」において小野寺さんが天然発言をしてしまい妹がその発言の意味を問い質したところその発言の意味するところを気付いた際の表情は確かに人気投票で1位になるのも頷ける破壊力でありそれを認めるのに吝かではないみたいなことは考えている訳です。



古味直志ニセコイ』12巻65ページ。 吝かではない)


そんな『ニセコイ』でありますが、先日発売された12巻で、ちょっと面白いと思ったコマがありました。こちらになります。



(同書43ページ。)


もう判った方もいらっしゃるでしょうか。
因みにこのコマは第100話「オタメシ」の中の1コマです。「告白」という行為を意識した千棘が想像したり練習したりしては恥ずかしさに七転八倒したり、千棘の両親の馴れ初めが描かれたりするエピソードなのですが、そんな中、千棘と楽の二人がベンチに座って、ちょっと落ち着いた雰囲気になりつつ、「恋人のフリ」をして既に(作中で)1年以上経過していることについてあれこれと会話をしている場面になります。


フキダシの形が、大きく分けて2種類ありますね。
普通のフキダシ*1と、フキダシの上が変な形になっているもの。
後者のフキダシが、千棘の台詞になります。そしてこのフキダシ、原作を読んだりアニメを観ている方なら説明不要かと思いますが、千棘のトレードマークでもあるリボンを模した形な訳ですね。


日本語の特徴のひとつとして、会話文の文体だけで性別・年齢・社会的身分といったものを類推しやすいというのがあると思います。実際に上のコマも、台詞だけを読んでもどちらが楽の台詞でどちらが千棘の台詞か、かなり容易に判別可能です。それを補足するという意味合いも、2種類のコマにはあると思います。


また、ほんらいフキダシで誰の台詞かを示す場合は、コマのどこかに「しっぽ」が付いている訳ですが、上のコマにおいてはそれは非常に使いづらい。淡々としていながらも、掛け合いといった表現が似合う、キャッチボール的な会話が為されています。それに伴い、必然的にフキダシは多くなります。尚且つ、大ゴマの真ん中に小さく2人が描かれていて、それをフキダシが囲んでいるという構図です。
仮にしっぽを用いてしまうと、幾つものしっぽが重なり合いながら画面の中心に向かっていくようになってしまい、街の背景とかも隠れてしまいますし、ページ全体が雑然とした雰囲気になってしまいます。この会話シーンの静かな雰囲気も損なってしまうように感じる次第です。


それを回避する手段として、フキダシそのものにキャラクター性を与えるという選択が採られたのだと考えるべきでありましょう。
マンガという媒体独自の表現手段である「フキダシ」を実に巧く、効果的に使っている例だと思います。


といったところで、本日はこのあたりにて。


ニセコイ 12 (ジャンプコミックス)

ニセコイ 12 (ジャンプコミックス)

*1:別冊宝島EX マンガの読み方』に従えば「達磨型」に分類されます。