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無敵な少女の眼が怖い

先日、ヤマシタトモコさんの新刊『運命の女の子』が発売されました。



アフタヌーン」や「good! アフタヌーン」に掲載された短編を集めた作品集になります。サスペンス作品・学園恋愛もの・ファンタジー的作品と何れも毛色の違う3作品が収録。


どの作品も良かったのですが、個人的には最初に収録されているサスペンス作品「無敵」が非常に強く印象に残りました。
ある程度内容に触れますと、「ある事件」の容疑者となっている少女を、女性刑事が取り調べるという対話劇です。そして取り調べを重ねていくうちに、少女の異様で歪な精神が浮き彫りになっていくという構成です。


この少女、作中で不気味なまでの存在感を示しています。その要因としては、少女自ら「無敵」と称する特異な思考もある訳ですが、この少女の「眼」の描写に拠るものが大きいのかな、と感じた次第です。極めて異質な存在として描かれている印象を受けます。


幾つか実例を出してみます。



ヤマシタトモコ「無敵」『運命の女の子』22ページ。)


取り調べの一場面になります。
右側の少女が事件の容疑者、左側の女性が取り調べを担当する刑事になります。両者を見比べれば一目瞭然ですが、眼の描写がまるで違うことが判りますね。少女の眼は大きく描かれており、とりわけ黒目の比率が大きいのが判ります。この作品内においては唯一、下睫毛もしっかりと描き込まれています。
他のキャラクターは眼はあっさり描かれるか、そもそも描かれないことも少なくありません。



(同書34ページ。)


これもまた取り調べの一場面でありますが、この半分白目を剥いているような描写、正確に書けば「黒目の上端が上瞼に隠れ、下端が下瞼から離れている状態」とでも言いましょうか、ちょっと正気から外れているような印象を受ける。喩えとして適切かどうかは判りませんが、エロマンガで絶頂を迎える瞬間とかにも良く使われる印象がありますね。あと、やや両目が眉間に寄っているのもちょっと不穏な雰囲気を出しているように感じます。



(同書68ページ。)


取り調べのさなか、自らの弁明をする少女。
まさしく無敵の論理の中に生きているのが示される、薄ら寒さすら感じてしまう場面です。
正面を向いている筈なのに、目だけは完全に別の方向を向いている。何か違うものを見ているような印象を受けますね。一方向に目を逸らしているのではなく、両目の視線がそれぞれ別の方向に泳いでいるのが、よりいっそう薄気味悪さを感じさせます。



と、まぁ眼の描き方ひとつ取っても、これほどまでに人格・性格を描きわけることができるのだな、と感じ入った次第です。
といったところで、簡単ではありますが本日はこのあたりにて。