マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

2度目の復刊。『横井軍平ゲーム館』

またしても更新が滞っていました。一度更新を止めてしまうと、どうしても再開にはエネルギーを使いますね。
まぁ、その期間もずっとマンガは読み続けている訳ですが、それと並行して、最近は活字の本もできるだけ読むようにしていました。その中の1冊がこちらです。



横井軍平ゲーム館』。
知っている方も多いかと思いますが、横井軍平氏は任天堂で「ゲーム&ウォッチ」や「ゲームボーイ」を生み出した方です。



(2009年に復刻されたゲーム&ウォッチ。)


それ以外にも、1966年に最初に制作した「ウルトラハンド」を始めとして数々の名作ゲームを世に送り出しており、この本の言葉を借りれば「任天堂で、ファミコン以外全部を開発した人」*1です。
横井氏の開発哲学でもある「枯れた技術の水平思考」という言葉を、どこかで聞いたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。


この『横井軍平ゲーム館』は横井氏唯一の著書となります。横井氏は1996年に任天堂を退社して株式会社コトを設立し、任天堂にいた頃にはできなかったことを始めようとしていた訳でして、その時期に受けたインタビューが『横井軍平ゲーム館』の中核となっています。
1997年に最初に『横井軍平ゲーム館』が出版された直後、横井氏は交通事故で逝去。この本じたいも、程なくして絶版となります。しかし名著との評判は高く、復刊ドットコムでも常に復刊希望上位に入っていたのですが、いろいろ権利が絡んでいたようでなかなか復刊はされず、一時期は amazonマーケットプレイスで80000円を超える金額にまで高騰していたとのことです。
その後、2010年にようやく『横井軍平ゲーム館 RETURNS』として改訂復刊、しかしそちらもここ何年かは手に入れるのが難しい状態となっていました。
しかし今年の8月に、ちくま文庫に収録される形で2度目の復刊。ようやく容易に読めるようになりました(最近の印象では、文庫も比較的早い段階で絶版になりやすい気がするので、気になる方は早めに入手したほうが良いかもしれませんね)。


横井軍平ゲーム館』は5章に分かれていまして、

となっています。1〜4章では、代表的な玩具・ゲーム機等の紹介と、それにまつわるエピソードを横井氏が語るという構成になっています。その数は24。その中に、ソフトウェアのプロデュース作品は殆ど含んでいないことを考えると、驚異的な数ではないかと考える次第です。
5章では、任天堂入社前の話やゲーム制作についての横井氏の哲学等が披露されます。「枯れた技術の水平思考」の話も、ここで登場します。


ゲーム&ウォッチ誕生のきっかけとなるエピソードや、ゲームボーイ開発での危機的な状況、バーチャルボーイに対する複雑な感情、グラフィック重視の方向へと進み続けるゲーム業界に対する危機感等、いずれも実に興味深い内容となっています。
そして読み進めていくと、何といいますか、横井氏はゲームをゲーム画面という枠から外していくような、或いはゲームを何か別の何かと繋げていくような動きに関心を向けていたことが浮かび上がってきます。


横井軍平ゲーム館』の中に、ゲームと医療分野を繋げるアイデアについて言及があるのですが、*2 ニンテンドーDSで驚異的な売上となった『脳を鍛える大人のDSトレーニング』とかはゲームと教育分野を繋げたものと捉えることもできるかと思いますし、ニンテンドー3DSバーチャルボーイの後継機と見ることも可能かもしれない。


最近だとこれもそうでしょうか。




上の動画は『Ingress』、下はつい先日発表された『Pokemon GO』のプロモーション動画です。
Pokemon GO』の基本的な技術じたいは『Ingress』が基になっているようですので、「枯れた技術の水平思考」に近いのかもしれないなと思ったりもします。現実世界がゲームのフィールドとなるという点においては、それこそ横井氏の目指した方向にも思えますし。
そう考えると、横井氏の哲学は現在も生き続けているのかなと考えたりします。


自分はここ数年ゲームから疎遠になってしまっているのですが、ゲームに関心がある方のみならず、自分と同じような状況の方にこそ、『横井軍平ゲーム館』は何か刺さるものがあるのではないかな、と感じたりします。
決して読んで損はしない、お薦めの1冊です。

*1:横井軍平牧野武文横井軍平ゲーム館 「世界の任天堂」を築いた発想力』ちくま文庫、227ページ。

*2:同書216〜217ページ。