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東京都指定不健全図書・諮問図書におけるBL作品の傾向と対策

※タイトルにはやや誇張があります。
表現規制とかに関心が高い方は、東京都指定不健全図書・諮問図書について目を配る機会があるのではないかと思います。


月に1回(毎月10日前後)に東京都青少年健全育成審議会というのが開催されまして、その会において何作品か(通例1〜3作品ほど)「不健全な図書類」というのが指定されます。
その対象となる図書類は全年齢作品として販売されていた訳なのですが、その指定を受けると一般書店では回収がかかって見当たらなくなったりするのですね。


そしてこの指定を受ける作品、男性向けのみではなくここ何年かはBL作品も受けることが多くなってきています。
それでちょっと訳あって、指定を受けたBL作品を調べる機会があったので、以下にまとめてみます。指定を受け始めたのは2010年からになりますので、それ以降のデータになります。これ以前の指定作品があり、且つご存知の方がいらっしゃれば、ご教示戴ければ幸いです。
因みに作者名がないもので、ふつうの鉤括弧「 」は雑誌、二重鉤括弧『 』はアンソロジーになります。



2010年


2011年

  • 『肉体派 VOL.19 極 !! エロ』(オークラ出版、2011年3月18日)
  • 宮下キツネ『殿下の家電』(海王社、2011年5月20日)
  • ジュネットMOOK DVD JUNE」(ジュネット、2011年6月1日)
  • 青山あると『Dr.チェリー』(海王社、2011年6月20日)
  • 宮下キツネ『限界バトル』(笠倉出版社、2011年8月5日)
  • 佳門サエコ『先輩の水着』(リブレ出版、2011年8月10日)
  • 藤井あや『男巫女』(ジュネット、2011年9月15日)
  • 藤井あや『桃色男子 檸檬編 〜檸檬と怜の章〜』(ジュネット、2011年11月15日)
  • 『肉体派ガチ! VOL.1 特集:戦うおっさん』(オークス、2011年12月23日)


2012年

  • 和泉アオ『ワンコ発情中』(日本文芸社、2012年1月10日)
  • 蝶野飛沫『愛玩奴隷 クライマーズハイ!』(ジュネット、2012年7月15日)
  • 東城麻美『被虐のキッス 東城麻美 伝説の作品集 上』(竹書房、2012年7月16日)
  • 東城麻美『享楽のペルソナ 東城麻美 伝説の作品集 下』(竹書房、2012年8月16日)
  • 宮下キツネ『もえるお兄様』(光彩書房、2012年11月7日)


2013年

  • 黄上恵理『心騒がせるキミと』(光彩書房、2013年2月7日)
  • いつきゆず『隷従の檻』(ジュネット、2013年5月15日)
  • しもがやぴくす&みらい戻『性玩具病棟』(ジュネット、2013年7月15日)
  • ふきなつき『愛玩サディスティック』(オークラ出版、2013年9月12日)
  • かゆまみむ『彼の食欲×性欲×所有欲』(リブレ出版、2013年11月10日)


2014年

  • はらだ『変愛』(リブレ出版、2014年1月23日)
  • 麻井キンタ『褐色のマーメイド』(大都社、2014年7月8日)
  • 蜂宮よう子『縛られやケンちゃん』(東京漫画社、2014年9月25日)
  • 「BOY'S ピアス 禁断」2014年11月号(ジュネット、2014年11月1日)


2015年

  • 藍川いたる『かべアナ』(ジュネット、2015年1月15日)
  • 座裏屋蘭丸『ペット契約』(リブレ出版、2015年3月10日)
  • 十はやみ『女装クロギャルママ男子』(ジュネット、2015年5月15日)
  • 灰崎めじろ『淫夢教師、飼育解禁。』(ジュネット、2015年6月15日)
  • 座裏屋蘭丸『眠り男と恋男』(リブレ出版、2015年7月10日)
  • 花田マコ『教師玩具』(ジュネット、2015年8月15日)
  • 『性癖BL』(メディアソフト、2015年9月15日)
  • 蔓沢つた子『好物はいちばんさいごに腹の中』(竹書房、2015年10月1日)
  • 有馬ちま子『ドS執事とヤンキー坊ちゃま』(コアマガジン、2015年10月24日)
  • 赤星ジェイク『はれもの水風船』(ふゅーじょんぷろだくと、2015年10月24日)


2016年


2017年

  • 池玲文『媚の凶刃 〜X side'〜』(リブレ出版、2017年1月10日)

以上、もしかすると幾つか漏れがあるかもしれませんが、調べた限りでは44作品になります。
そしてこう一覧を作成してみると、朧げに見えてくるものがあるといいますか。


まず、最初は特定の作品ではなく、雑誌やムック・アンソロジー類を指定していたことが判りますね。これに関しては、恐らくではありますがアタリをつけていたのではないかと考える訳です。複数の作品が収録されている雑誌やアンソロジーはそれに適しているといいますか、後々の作品ごとの指定に向けての試金石みたいな意味合いも含まれていたのではないか、と。
実際、2010年に『GUSHmaniaEX 特集 勃たない !?』が指定されている訳ですが、翌年に同じ出版社の作品が2つ指定を受けています。因みに作者の宮下キツネさんと青山あるとさん、共に『GUSHmaniaEX 特集 勃たない !?』にも参加しているのですね。


そして宮下キツネさんは(あくまで調べた限り、ではありますが)不健全図書の指定を受けた最初のBL作家さんになった訳でして、それ故なのか三度にわたり指定を受けています。3回指定を受けたのは唯一、宮下キツネさんのみ。
2回指定を受けた方というのは何名かいますね。藤井あやさん、東城麻美さん、座裏屋蘭丸さん。共通しているのは殆ど間をおかず続けざまに指定を受けているという点になります。一度注目?されると続けざまに...という傾向が窺える訳ですが、それぞれケースが異なるので個別にみていきます。


まずは藤井あやさんから。『男巫女』『桃色男子 檸檬編 〜檸檬と怜の章〜』の2作品で指定を受けている訳ですが、注目して戴きたいのは後者です。タイトルからある程度察することができますが、『桃色男子』は全4冊のシリーズで、「檸檬編」はその3冊目になります。1冊目は2007年、2冊目は2008年、4冊目は2012年3月に発売された訳ですが、これらは何れも指定を受けていないのですね。何故か3冊目だけ。
同様の傾向を窺える作品も別に存在しまして、佳門サエコさんの『先輩の水着』がそれにあたります。同様のコンセプトの『花嫁の水着』という作品が2016年1月に発行されていまして、こちらは特に指定は受けていません。
因みに『先輩の水着』に関しては修正を加えたうえで『水着彼氏。』と改題した作品が電子書籍版で読むことが可能です。
これらのことから考えられる可能性は、

  • 指定を受け、次回作以降は作者さん側で表現に配慮している
  • 指定した側はアトランダムで選別していて、ある程度期間を経たものが続編か或いは同様のコンセプトなのかは考慮外。または把握しきれていない

といったところでしょうか。


続けては東城麻美さんですが、2007年にお亡くなりになっていまして、その後に初収録も含めたセレクションというかたちですね。いろいろと毀誉褒貶ある作家さんでもあった訳ですが、立て続けに指定を受けてしまったというのは何か複雑な気分になります。


そして座裏屋蘭丸さんですが、元々電子配信されていて非常に人気が高く、紙媒体で満を辞して出版したら指定を受けてしまった、というかたちです。又聞きにはなりますが、男性向けでも同様のケースは見受けられる模様です。
2作品が立て続けに指定を受けてしまい、これが影響しているのかは定かではありませんが、その次に出した作品『VOID』は完全受注生産且つ最初からR-18指定での出版、電子書籍版もあるとの話ですがそちらは修正が強く入っているとのことです(こちらも又聞きですが)。因みに『VOID』は非常に評価が高く、「このBLがヤバい!2017年度版」でも上位にランクインしています。



あと注目しておきたいのは、出版社の傾向でしょうか。
上の一覧を見て戴ければ一目瞭然ですが、圧倒的ジュネット(或いはマガジン・マガジン)率です。
全44作品のうち、15作品がジュネット。だいたい1/3ですね。2010年以降毎年指定を受けている唯一の出版社でもあります。
ジュネット、これは私見になりますが、BL系の出版社では最も突き抜けている印象でして、全身全霊で頭の悪いことをしている感があります(賛辞です、念の為)。6年ほど前にはなりますが、ジュネットの雑誌について軽く触れたことがあるのでよろしければそちらもご参照ください。

あとは、「ポロリ落とし」で画像検索をして戴ければある程度は納得してもらえるかな、と。元ネタとなる作品は、ジュネットから出ています。


それとは逆に、これまで指定を受けていない出版社の傾向もあります。一般コミックス(非BL・非成年向)を主軸に据えている出版社のBLレーベルは、指定を受けない傾向が強いですね。
例を幾つか挙げると、新書館(Dear+コミックス)・芳文社(花音コミックス)・幻冬舎(ルチルコミックス・LYNXコミックス)はかなり規模が大きいBLレーベルを持っていますが、これまで指定を受けていません。それより若干規模は小さい印象がありますが、集英社(EYES COMICS Blink)や白泉社(花丸コミックス)もそうですね。意外かもしれませんが、集英社(正確には集英社グループのホーム社)もBLレーベルを持っているんですよ。


ただこれもあくまで「傾向が強い」というだけで、竹書房はこれまでに3作品が指定を受けていますし、昨年11月には、初めてKADOKAWAが指定を受けているんですね。CL-DXというレーベルで、『純情ロマンチカ』や『世界一初恋』、『八犬伝 -東方八犬異聞-』に『SUPER LOVERS』等、アニメ化された作品も少なからず存在するレーベルです。どこの出版社が指定を受けるかは、今後も注目しておいたほうが良いかもしれません。


といったところで、あまりまとまっていない気もしますが、長くなったのでこのあたりにて。