マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

今年のマンガを振り返る対談(独りで)・本編その1

前回の記事の続きになります。


m:ではようやくですが、今年個人的に印象に残った作品を振り返ってみようかと思います。基本的に順位を付けたりはしない方向ですが、今年は別格の作品がありました。
k:あぁ、あれか?
m卯月妙子さんの『人間仮免中』です。


人間仮免中

人間仮免中


k:『このマンガがすごい!2013』のオトコ編でもかなり上位に食い込んでいたな。あれはただひたすらに圧倒される。
m:『人間仮免中』の感想については、以前書いたものをご参照戴ければと思います。自分で言うのも何ですが、これまでに書いた感想のうちでも、五指に入るくらいには気合を入れたつもりです。リンクも貼っておきますね。


k:宣伝は結構だよ。
m:ついでに書いてきますと、google卯月妙子さんのお名前か、或いは『人間仮免中』のタイトルを検索すればかなり上のほうに上の記事が来ます。ありがたい話です。
k:だから宣伝は結構だと。それ以外の作品に移ろうじゃないか。


m:そうですね、『人間仮免中』はエッセイ・ノンフィクションに分類されると思いますので、同ジャンルから何か考えてみますか。
k:それだと、水木しげるセンセイの『ゲゲゲの家計簿』が面白かったな。紙芝居の絵描き〜貸本時代あたりの水木センセイの貧乏生活については自伝でも触れられているけど、詳細な家計簿と共にマンガで描かれると、また実に見事な味わいが出ていた。当時の紙芝居・貸本業界についての貴重な証言・記録にもなっているし、それでいて独特の空気が流れている。


ゲゲゲの家計簿 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

ゲゲゲの家計簿 上 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)


m:今月末に出る下巻も楽しみですね。水木作品は文庫版・復刻版も可能な限り集めたいところですが、ちょっと資金面の問題が・・・。
k:それでも数年前に比べれば格段に手に入れやすくはなっているかな。そうそう、復刻版といえばあれがあったじゃないか。
m:福島鉄次『沙漠の魔王』ですね。絵物語と言うべきなのかもしれませんが、初期と後期はかなりマンガに近いので、入れても差し支えないでしょう。


「沙漠の魔王」完全復刻版

「沙漠の魔王」完全復刻版


k:実験的なコマ割りとかアメコミ的な色遣い、一読の価値ありの本だな。・・・まだ全部読んではいないけどな。
m:これに関しても記事を書いたので、リンク貼っておきます。


k:それじゃあ次。


m:では、水木センセイの話も出たことですし、怪奇・伝奇・ホラー系の作品を幾つか挙げていきましょうか。まず筆頭に挙げられるのは、やはり高橋葉介さんの作品ですか。今年出たものとなると、『怪盗ミルク』『夜姫さま』『ストーリィ・テラー』の3作ですかね。どの作品も、読み手を心地よく騙してくれると言いますか、予想を奇麗にひっくり返してくれるような構成、そして妖しさを携えた筆致が素晴らしいです。『夢幻紳士』や『もののけ草紙』の続編にも期待したいところですね。

怪盗ミルク

怪盗ミルク

ストーリィ・テラー (ぶんか社コミックス)

ストーリィ・テラー (ぶんか社コミックス)

k:『夜姫さま』には『もののけ草紙』の描き下ろしが収録されているんだったか?
m:らしいですね。実はそれ最近知りまして、『夜姫さま』は旧版を持っていたんで購入後回しにしていたんですよ。それで行きつけの書店に行ったら無くなっているという。
k:本は早めに買わないと、よっぽどの大型書店じゃない限りすぐに消えてしまうよな。まぁそれはそれとして、伝奇ものと言えば諸星大二郎さんも外せないな。
m:『西遊妖猿伝 西域篇』!素晴らしい作品ですね。『西遊記』を核に据えつつ『水滸伝』やら確か『聊齋志異』もでしたか?様々な中国の古典の題材を換骨奪胎して、唯一無二の世界観を造り出している。悟空や三蔵たちの波乱と怪異に満ちた旅路、目が離せませんね。


西遊妖猿伝 西域篇(4) (モーニング KC)

西遊妖猿伝 西域篇(4) (モーニング KC)


k:他には何かある?
m:そうですね、ひよどり祥子さんの『死人の声をきくがよい』。これは twitter のTLで名前を見掛けたり、なめくじ長屋奇考録管理人の劇画狼さんが推していたので気になって読んでみたのですが、これは良かったです。正統派ホラーと言いますか、ひばり書房の系譜と言えるのでしょうかね。ホッとする読後感と後味の悪さのバランスが絶妙でした。・・・そうだ、水木センセイの名前が挙がったのであれば、あの作品も出さないといけませんね。
k:ドリヤス工場さんの『あやかし古書庫と少女の魅宝』だな。
m:水木センセイの筆致・息遣いを見事なまでに再現しつつ、それでいて内容はライトノベルを彷彿とさせる伝奇アクション。正反対のベクトルに向かうかのようなこの2つが組み合わさることで、独自の世界観が作り上げられていました。


死人の声をきくがよい (チャンピオンREDコミックス)

死人の声をきくがよい (チャンピオンREDコミックス)

あやかし古書庫と少女の魅宝 第1巻 (IDコミックス REXコミックス)

あやかし古書庫と少女の魅宝 第1巻 (IDコミックス REXコミックス)


k:じゃあ、そろそろ別方面の作品に。冒頭から少々裏街道っぽいセレクションになってしまったから、メジャーどころから選んでみるか。四大少年誌、「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」「チャンピオン」では何が良かった?
m:う〜む、実を言うと最近少年誌に関しては相当に疎くなっているという自覚があります。基本的に単行本派ですし、仕事の忙しさにかまけて雑誌のチェックもひどく大雑把になってしまっているのが実情で。・・・「ジャンプ」だと松井優征さんの『暗殺教室』に古舘春一さんの『ハイキュー!!』、マガジンだと勝木光さんの『ベイビーステップ』、サンデーだと荒川弘さんの『銀の匙』、チャンピオンだと瀬口忍さんの『囚人リク』に渡辺航さんの『弱虫ペダル』といったあたりですか。


暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

ハイキュー!! 3 (ジャンプコミックス)

ハイキュー!! 3 (ジャンプコミックス)

ベイビーステップ(24) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(24) (講談社コミックス)

銀の匙 5―Silver Spoon (少年サンデーコミックス)

銀の匙 5―Silver Spoon (少年サンデーコミックス)

弱虫ペダル 26 (少年チャンピオン・コミックス)

弱虫ペダル 26 (少年チャンピオン・コミックス)

囚人リク 9 (少年チャンピオン・コミックス)

囚人リク 9 (少年チャンピオン・コミックス)


k:順当というか、安全牌な選び方だな。確かに『暗殺教室』は殺せんせーの秀逸なキャラクター造型に人を喰ったような舞台設定が読ませるし、『ハイキュー!!』の瑞々しい熱さとスピード感の描写が巧い。『ベイビーステップ』は緻密な理論に裏打ちされた試合展開と、エーちゃんのみならず対戦相手も試合を通じて覚醒していくところに惹きこまれる。『銀の匙』や『弱虫ペダル』の安定感、完全無欠と思われる刑務所からの脱獄・復讐という、心躍らされずにはいられない題材と漢臭さ全開の『囚人リク』。どれも読み応えがある作品だと思う。
m:『暗殺教室』は、ランキング等に名を連ね出すのは来年以降でしょうね。それにしても『ベイビーステップ』、ナッちゃんは何故あそこまで完全無欠な天使なんでしょうね?天使なんでしょうね?
k:気持ちは判らないでもないが、落ち着け。


m:(呼吸を整えつつ)・・・では次は少女マンガでいきますか。どれが良かったですか?
k:そうだな、これも順当かもしれないが、やっぱりアルコ・河原和音さんの『俺物語!!』はヒットだった。藤村真理さんの『きょうは会社休みます。』も。あとは雪丸もえさんの『ひよ恋』、末次由紀さんの『ちはやふる』は良い作品だな。


俺物語!! 2 (マーガレットコミックス)

俺物語!! 2 (マーガレットコミックス)

きょうは会社休みます。 2 (マーガレットコミックス)

きょうは会社休みます。 2 (マーガレットコミックス)

ひよ恋 9 (りぼんマスコットコミックス)

ひよ恋 9 (りぼんマスコットコミックス)

ちはやふる(19) (BE LOVE KC)

ちはやふる(19) (BE LOVE KC)


m:『俺物語!!』の猛男はまさしくヒーローですね。少年マンガですら昨今見掛けなくなったタイプのキャラクターが、少女マンガの主役として登場したというのは興味深い現象です。2巻に収録された、火事の現場から脱出する場面とか、笑いを通り越して感動すら憶えました。『きょうは会社休みます。』も、心理の襞といいますか機微といいますか、実に繊細に表現されていて素晴らしいと感じると共に、少女マンガの特性みたいなものを考えさせられる作品でもありました。
k:特性って、どういったあたりが?
m:ほら、あの作品の概略を物凄く大雑把に言うと、「33歳で処女だったヒロインが10歳以上年下の青年と付き合う」って話じゃないですか。この設定、性別を逆転させると「33歳童貞の主役が10歳以上年下のヒロインと付き合う」になる訳で、こういった設定、男性向の作品だとかなり難しいように思うんですね。『未満れんあい』や『こどものじかん』みたいに、読者ターゲットを絞った雑誌に掲載されると思う。或いは花沢健吾さんの『ルサンチマン』みたいな方向へ向かうか。何れにしろ、何かしらのファンタジーを感じさせる内容にはなると思う訳ですよ。
k:なるほど。
m:それに対して『きょうは会社休みます。』、読んでいて少なからず地に足の付いた印象を受ける訳です。自分は恋愛とかに関しては、ほんらい何も口を出せるような立場ではないので、この印象じたいが幻想かもしれませんがね。それの是非はさておいて、少なくともそういった印象は感じる。これは不思議だなと思いました。やはりディテールの積み重ねが巧いのか、或いは性に対するメンタリティに由来するものなのか、それとも少女マンガそのものがターゲットを絞った媒体なのか、ちょっと判らないんですが。


k:意外といろいろ考えているんだな。
m:それはさておき、『ひよ恋』のひよりんマジプリティですね。
k:一瞬でもこんなことを考えた俺がバカだったのか。でもその意見は間違っていない。ひよりんだけじゃなく、登場キャラクター全員がほんとうに良い奴ばかりなので、全員幸せになって欲しいな。
m:『ちはやふる』から迸る気魄、作品全体から滲み出る熱量については、今更言うこともないかとおもいます。


k:他に少女マンガで何かある?
m:えぇと、個人的な嗜好として、スケールの大きな物語が好きなんですよ。そういった点から考えると、田村由美さんの『7SEEDS』と草凪みずほさんの『暁のヨナ』は外せないかな、と。前者は既に10年くらい連載続いているので説明不要かもしれませんが、文明が崩壊して自然環境までも大きく様変わりした未来の日本を舞台にしたサバイバル群像劇。後者は中華風ファンタジーで、王家の一人娘であったヒロインのヨナが、嘗ての恋人による政変で父王を殺され、落ち延びて国中を旅しながら仲間を探していく。その過程でそれまで知ることのなかった国の実際の姿を目の当たりにして、ヨナ自身も成長していく。どちらも非常に力強い物語ですね。


7SEEDS 23 (フラワーコミックスアルファ)

7SEEDS 23 (フラワーコミックスアルファ)

暁のヨナ 9 (花とゆめCOMICS)

暁のヨナ 9 (花とゆめCOMICS)


k:強いヒロインは良いよな。とりわけ『暁のヨナ』の6巻だったかな、今年ではなくなってしまうんだけど、海賊の首領に矢を射ろうとするヨナが見開きで描かれる場面があったんだが、あのシーンの眼力が凄かった。
m:ところで『暁のヨナ』は今月10巻が出ますが、現時点での既刊9巻のうち、確か3冊『ベルセルク』の三浦建太郎さんが帯に推薦文書いているんですよ。あれ、不思議ですよね。
k:熱烈に推しているよな。もっと別の人が書いてくれても良いんじゃないかとは思うけどな。
m:もっと知られて欲しい作品ですね。


k:ずいぶん長くなってしまったな。
m:まだ半分も語れていないですけどね。とりあえず一区切りとしておきましょうか。という訳でまた次回。まだちょっとだけ続きます。
k:『DRAGON BALL』で何回か見たような台詞だな。
m:察して戴ければ幸いですね。


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