マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

No.50

一回殆ど書いた日記を操作ミスで消してしまい凹んでいますが、気を取り直して書き直します。
12日に購入したのはこの2冊。


2冊とも女性作家さんのものになりました。
「flowers」連載作品は勢いがあるのが多いですね。

岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』2巻

町でうわさの天狗の子 2 (フラワーコミックスアルファ)

町でうわさの天狗の子 2 (フラワーコミックスアルファ)


面白いですよね。
高校生の恋愛模様が描かれる作品ですが、その設定が特異です。
天狗の存在がごく当たり前の日常として描かれているのですよ。
そしてヒロインの刑部秋姫は天狗と人間のハーフです。天狗の血を引いているだけあって普通の人間とは異なっていて、トラックを軽々と持ち上げる怪力を持っていたりします。
当然のように父親(天狗)やそれに従う動物(人間に変身もできて、人の言葉も喋れる)たちは秋姫に後を継いでもらおうとしているのですが、秋姫は普通の高校生として恋愛をしたいと考えていたり。


この設定による独特の世界観や、それゆえの独特の台詞とかがこの作品の大きな魅力になっていると思います。
「お前円空好きか・・・」とか、個人的にツボです。


この彫刻刀の箱に描かれる仏像とか、円空の作品ですね。
女性作家さんが描く恋愛マンガに「円空」とか、なかなか出てこないですよね。(^ω^)

47年前のトレースマンガ

先日トレース疑惑への雑感という記事を書いてみたところ、予想以上にコメントを戴きました。
あまり深い考えなしに書いた文章だったもので、非常に真摯なコメントであったにも関わらずちゃんとしたレスができなかったように思います。やはりこの話題はより深く検討したうえで確固たる持論がまとまってから書くべきであったかなと反省している次第です。(´ω`;)


まぁ今日書くこともトレース関連なのですが。
問題提起とかいうのではなく、こういうものが以前あったのですよという報告です。
タイトルどおり、今から半世紀近く前に存在したトレースマンガをご紹介します。


こちらです。


(1997年に出版された復刻版です。不気味ですね!)


『寄生人』という、1961年に描かれた作品です。作者はつゆき・サブロー
1950〜60年代を中心に出版された「貸本」で描いていたマンガ家さんです。
つい先頃『遠野物語』の新連載を始めた水木しげるセンセイとも交流があり*1、最初に出版された(つまり貸本の)『寄生人』の表紙は水木センセイが描かれておられます。
今年始めにアニメ化された『墓場鬼太郎』をご覧になった方も多いと思いますが、あれに登場した「霧の中のジョニー」(或いは『ゲゲゲの鬼太郎』の吸血鬼エリート)はつゆき氏がモデルになっています。ほんとうにそっくりなんですよ。


つゆき・サブロー氏。同じでしょう?)


因みにどういう話かといいますと、表紙からも察せられるようにホラーマンガです。
主人公の新聞記者・水原の膝に化物が巣食ってしまい、次第にその化物が水原の身体を乗っ取ろうとして・・・というボディ・スナッチもの。『ジョジョの奇妙な冒険』第3部に登場するネーナのスタンド「女帝」を思い起こさせますね。


そしてこの『寄生人』ですが、殆どのコマがトレースです。
復刻版に同梱されている冊子に詳細な解説がありますが、『墓場鬼太郎』シリーズの第1話「幽霊一家」と第2話「幽霊一家 墓場の鬼太郎」のコマをトレースして、入れ替えて構成されているのですよ。
だから初めて読んでも物凄いデジャヴを感じるんですよね。(;^ω^)


しかし技術的な面では水木センセイには遠く及ばず、B級テイストが溢れる雰囲気になっています。
当時の流行なのか或いは貸本ならではの傾向か、グロテスク指向も強いですね。
技術の拙さが逆にストレートな不気味さ・気持ち悪さを感じさせるような箇所もあり、強いインパクトを残す作品となっています。


当然現在だと大騒ぎになるようなつくりですが、これが成立し得たのは、

  • 当時は著作権という概念があまり顧みられなかった
  • 更には貸本という、捨て去られ忘れられるのを半ば宿命付けられたジャンルで生まれた作品である
  • 作者とトレースされた側に親交があった

こういった事情が挙げられるかと思います。
いずれにしろ、そのような時代でのみ誕生し得た、まさに奇書と呼ぶに相応しい作品なのです。

寄生人 (QJマンガ選書 (06))

寄生人 (QJマンガ選書 (06))

*1:つゆき・サブロー氏は『カランコロン漂泊記』(小学館文庫)所収のエッセイでも紹介されていますし、『東西奇ッ怪紳士録』(小学館文庫)にも登場します。