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時折マンガの話をします。

水木しげるセンセイの元ネタについて+α

何日か前に、水木しげるセンセイ作品の「元ネタ」に関してちょっと盛り上がっていた模様。


上のまとめ記事は、純粋に水木しげるセンセイの妖怪絵の元ネタを淡々と挙げていったもの。下の記事は、このまとめ記事を読んで書き綴った内容です。
下のほうは、まぁこれは自分の主観でしかないのですが、幾許かの悪意みたいなものが行間から滲み出ている印象を受けますね。


ゲゲゲの鬼太郎』で有名な妖怪漫画家、水木しげる先生が描いた妖怪の絵がパクリだらけだと指摘してる『Twitter』で指摘してる人がいまして、まとめを見るかぎりなるほどパクリだらけでした。


水木しげる先生の妖怪絵がパクリだらけでボクのなかで水木しげる株つるべ落とし状態


このように書いていらっしゃる訳ですが、「指摘してる」が繰り返されていて日本語として妙だな、文法とか気にするよりも書き上げることを優先したのかなといった意見はさておいて、上のまとめでは1度も「パクリ」という言葉を用いていないのですよね。
「パクリ」だと指摘したのは、下の記事を執筆された方であろう、と。



水木センセイの作品には少なからず元ネタがある、というのはそれなりに有名な話です。これは何も妖怪絵に限った話ではないのですね。実例を挙げてみましょう。



水木しげる『幽霊艦長』ちくま文庫版、287ページ。)


この画像は、『白い旗』という作品のクライマックスです。水木センセイは戦記マンガも多数描かれていますが、数ある作品の中でも有名な、戦記ものの代表作のひとつと言えるでしょう。
硫黄島での玉砕で僅かに生き残った部下の命を救うため、砲弾が飛び交う中でひたすらに白旗を降り続けた隊長が、一人残らず死に絶えるまで抗戦するべしと考える別の日本軍将校の命令で射殺されてしまう場面。戦争の理不尽・無意味さが淡々と、しかし静かに燃えるように描かれる名編です。
そしてこの場面の元ネタがこちら。


灰とダイヤモンド [DVD]

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ポーランド映画界の巨匠、アンジェイ・ワイダ監督の代表作『灰とダイヤモンド』。
第二次大戦後のポーランドレジスタンスグループの対立(自由主義側とソ連側)を背景に、テロリズムに走ることになる青年の悲劇を描いた名作です。そのラストシーンが、上の画像です。
これ以外にも、『鬼太郎ベトナム戦記』のラストシーンは、旧ソ連を代表する映画監督の一人、フセヴォロド・プドフキン監督の代表作『母』が元ネタだったりもしますね。


母 [DVD]

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自分などは水木センセイの博覧強記・情報収集能力に只々感嘆するばかりです。そして如何なる元ネタが存在しようと、描かれた作品は紛れもなく水木センセイの味わいになっているところに面白さを感じたりもする訳ですが、やはりこれを許し難いと義憤に駆られる方もいるのかもしれませんね。確かに、現在同じようなことをやり、且つ「これは自分のオリジナルだ」と言い張るのであれば、問題にはなるかと思います。
ただ、上の『白い旗』が描かれたのは1964年*1なのですが、その時期は現在よりも著作権に関する捉え方が非常に緩かったという点は踏まえておくほうが良いかと考えます。少なくとも1980年頃までは、映画のワンシーンをマンガでほぼそのまま使うといった行為は、それほど珍しいことではありません。*2



幾つか例を挙げてみましょう。



石ノ森章太郎サイボーグ009』秋田文庫版5巻21ページ。)


こちらは名作『サイボーグ009』の冒頭、002となるジェット・リンク初登場の場面です。
これに関しては、あまり説明する必要はありませんかな。



ミュージカル映画の金字塔、『ウエスト・サイド物語』の冒頭ですね。002の名前、ジェット・リンクも、『ウエスト・サイド物語』のジェット団が元ですかな。*3対立しているシャーク団との抗争で、相手をナイフで刺してしまう筋書きも元ネタを踏襲しています。名前で言えば、003ことフランソワーズ・アルヌールも、1950年代に活躍したフランスの女優の名前をそのまま用いていますね。


ヘッドライト [DVD]

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(フランソワーズ・アルヌールの代表作です。)



石ノ森章太郎さんの作品で、もうひとつ挙げてみましょう。



石ノ森章太郎『原始少年リュウ竹書房文庫版121ページ。)


SFシリーズ " リュウ三部作 " として知られる作品の2作目『原始少年リュウ』の一コマ。
原始時代を舞台にしつつ、SF・オカルト的ギミックをちりばめた作品です。上のコマは、「りゅうの王」と呼ばれる生き物(ティラノザウルスと思われます*4)に闘いを挑んだリュウの同志・キバが力尽きる場面ですが、この「揺れる腕」を「キバが呼んでいる」と解釈するくだり、映画『白鯨』に同じシチュエーションが存在します。
キバと「りゅうの王」の関係そのものが、『白鯨』におけるエイハブ船長とモビー・ディックの関係に近いですしね。




更にもうひとつ。
次は藤子・F・不二雄先生です。



藤子・F・不二雄藤子・F・不二雄大全集 大長編ドラえもん』1巻378ページ。)


個人的に「大長編ドラえもん」の最高傑作だと思っている『のび太の宇宙開拓史』の名場面、のび太ギラーミンとの一騎打ちのシーンです。読み返す度に心が震えますね。
そしてこの場面は、『ヴェラクルス』という西部劇映画の決闘シーンが元ネタです。『ヴェラクルス』を観て感動するエピソードは、A先生の『まんが道』にも描かれていましたので知っている方は多いかもしれません。



のび太の宇宙開拓史』が「コロコロコミック」に掲載されたのは1980〜81年なので、その時期あたりまでは、元ネタを使うという行為は取り立てて非難されることはなかった、と考えられるかも。



と、「元ネタ」の実例を幾つか挙げてみました。
石ノ森章太郎さんや藤子先生の株がつるべ落とし状態になる方がいたら申し訳なく思う次第です。
因みに「元ネタをしっかりと判るようにしておくべきだ!」という意見があるのならば、こちらのサイトに詳細なデータがあります。


何と言っても、togetter での元ネタツイートをされた方のサイトなので、精緻を極めた内容となっています。
ここまで調べるのは、余程のファンでないとできないよなぁ、と感嘆するばかりですね。



といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:オリジナル版の『二人の中尉』が発表された年。加筆され、『白い旗』に改題されたのは1968年。

*2:案外、マンガやアニメの感想を書くサイト・ブログや2chとかで、「この場面が最高だ!○○可愛い!」といった感想と共に画像を貼り付けたりするのと同じくらいの感覚で使っていたのかもしれません。

*3:ジェームズ・ディーンが遺作『ジャイアンツ』で演じた役の名前がジェット・リンクなので、そちらかもしれませんね。

*4:この時代には絶滅している筈ですが、そこはフィクションということで。

5月20日

20日に購入したのはこちら。


マダム・プティ 2 (花とゆめCOMICS)

マダム・プティ 2 (花とゆめCOMICS)


以上2冊。
『マダム・プティ』は、洒脱っていう言葉が実に似合う作品だと思います。未だ傷心癒えず、周囲に振り回され続けている万里子は、パリという舞台で如何に磨き上げられていくのか、期待は高まるばかりです。
リーゼロッテと魔女の森』は、高屋奈月さんらしい、悪意を体現したかのようなキャラクターが登場しました。今後、作品に重みが出てくるのかな、という感もありますね。それを如何にして乗り越えていくのかも気になるところです。

5月17日

17日に購入したのはこちら。


マギ 17 (少年サンデーコミックス)

マギ 17 (少年サンデーコミックス)


以上6冊。当たりの日ですね。
ジョジョリオン』、東方定助の秘密が明かされるくだりが圧巻でした。
デストロ246』は、女子高生と銃器・刃物という物騒な取り合わせが素晴らしいですね。このシチュエーションは心惹かれずにはいられないです。

『鬱ごはん』の黒猫

少し前のことになりますが、施川ユウキさんの新刊『鬱ごはん』を読みました。



食事を題材にしたマンガは多数ありますが、この『鬱ごはん』はタイトルからも推察できるように、他の作品とは一線を画しています。
この作品の主役は、就職浪人生・鬱野たけし(初登場時22歳)。彼は食への興味が薄い。鬱野たけし自ら、作中で「食事とは大層面倒臭い行為だ」*1「何を食べても美味しく感じられない」*2といった発言をしています。
『鬱ごはん』は、将来の展望も決して明るくはなく、その日暮らしに近い生活を続ける彼が、ネガティヴな思考を延々と綴りながら独りで淡々と、半ば機械的に食事を消化していく様子を詳細に描く作品です。


さて、その『鬱ごはん』ですが、独りで食事をしている最中、別の登場人物(?)も登場します。鬱野は「妖精」と読んでいる黒猫です。関西訛りのこの猫は、鬱野のネガティヴ思考に対してツッコミを入れたり、辛辣な意見を突き付けたりします。先行き不透明な鬱野の精神状態を象徴するキャラクターでもあります。



この黒猫、実は作中以外の箇所にも存在を確認することができます。



施川ユウキ『鬱ごはん』1巻11ページ。)


この作品、欄外も鬱野の心理を反映しているかのような灰色で統一されているのですが、その欄外に、時折このように黒猫が描かれています。奇数ページ(見開き左側)の場合、下に描かれます。*3



(同書14ページ。)


偶数ページ(見開き右側)の場合は、上部に描かれます。こちらも時折、唐突に登場します。
どのページに描かれているか、抜き出してみましょうか。

【奇数ページ】
11、19、27、33、41、49、57、65、73、81、91、99、107、115、123、131、139、147、155、159、163
以上21箇所。


【偶数ページ】
14、22、36、44、52、60、68、76、86、94、102、110、118、126、134、142、150
以上17箇所。


合計39箇所になりますね。
そしてこの黒猫、一定の法則に従って描かれています。
基本的に、奇数ページと、その3ページ後の偶数ページに描かれるのですな。
11ページに描かれたなら、次は14ページ。
19ページに描かれたなら、次は22ページ、という具合です。



ただ、上の記載箇所を見て疑問に思われた方がいるかもしれません。
偶数ページの記載箇所のほうが少ない。155ページ以降が該当しますね。
そしてそれ以外にも1箇所、上記の法則に当てはまらない箇所がある。
しかしこれもまた、別の法則に従っていると言えるのです。次はそれについて説明します。


まず、今挙げた2つの疑問点のうち、後者のほうから書いておきます。
該当箇所は、81ページと86ページですね。
法則に従うのであれば、84ページに黒猫が記載される筈です。しかしこの箇所のみ、5ページの開きがある。
これには理由があります。83・84ページは、本編ではなくイラストカットが掲載されているのですね。コマじたいが存在しないので、欄外に黒猫を描くことはできないのです。それ以前の問題として、描かれているイラストカットじたいが黒猫ということもあります。
このイラストカットのページを含まずに考えれば、奇数ページの3ページ後に描かれている、と捉えることもできる訳です。


そしてもうひとつの疑問点、155ページ以降について。
これには別の法則が関係しています。それは、各話の最初と最後のページに黒猫は描かれない、というものです。例えば、第1話最終ページ(12ページ)と第2話最初のページ(13ページ)には描かれていません。


それを踏まえて、本来黒猫が描かれている筈のページを見てみます。


まずは、158ページ。
このページは、『鬱ごはん』1巻に収録された39話*4のうち、唯一右側(偶数ページ)から始まる話の最初のページなのです。第37話「肝油ドロップ」の1ページ目ですね。ほんらい黒猫が描かれる筈の箇所には、この副題が描かれています。


続いて、162ページ。
こちらは第37話「肝油ドロップ」の最終ページになります。
それに替わるようなかたちで、その次のページ、「あとがき」が記載されている163ページの上部に、黒猫が描かれているのですね。



これが、偶数ページの記載箇所が少なかった理由になります。
この厳密に定められた法則性、何かSFっぽい気もしますね。・・・と、『バーナード嬢曰く。』に強引に繋げてみました。



と、まぁこのようなことを延々と考えていると、それこそ自分の目の前に妖精が現れて、何か辛辣な言葉を投げかけてくるような気がしますな。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:施川ユウキ『鬱ごはん』1巻12ページ。

*2:同書17ページ。

*3:163ページ(あとがき)のみ、奇数ページでありながら上部に描かれています。

*4:第0話と、特別版を含む話数。

5月16日

16日に購入したのはこちら。


ガーフレット寮の羊たち 2 (プリンセスコミックス)

ガーフレット寮の羊たち 2 (プリンセスコミックス)


以上3冊。
『ガーフレット寮の羊たち』は、ヴィクトリア朝〜20世紀初頭の大英帝国を舞台にした作品を多く手掛ける、もとなおこさんの作品です。今作の舞台となるのは、1870年のパブリックスクールウィンザー校。殆どが少年だけで構成される世界は、『トーマの心臓』を彷彿とさせますね。ジェントリーの卵と言える彼らの成長を如何に描いていくのか、期待を寄せています。

5月15日

15日に購入したのはこちら。


源君物語 1 (ヤングジャンプコミックス)

源君物語 1 (ヤングジャンプコミックス)

源君物語 2 (ヤングジャンプコミックス)

源君物語 2 (ヤングジャンプコミックス)

くーねるまるた 1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)

くーねるまるた 1 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)


以上4冊。
ひよ恋』は相変わらず良い。ひよりんはほんとうに可愛らしいですな。(´ω`) それに加えて、この巻ではひよりんの幼馴染み・律花も良かった。寝た振りをしつつ、顔を赤らめる90ページの表情とか、実に素晴らしいですよ。
源君物語』は、果てさてどういう着地をするのか。まさしく現代の光源氏になるのか、或いは『マイ・フェア・レディ』的展開もあるのか、興味津々です。

5月13日

13日に購入したのはこちら。


かみのすまうところ。(2) (KCデラックス BE LOVE)

かみのすまうところ。(2) (KCデラックス BE LOVE)


以上2冊。
かみのすまうところ。』2巻は、個人的に最注目の作家さんのひとり、有永イネさんの新刊となります。宮大工は木の神が実際に見える、という世界観が独特の雰囲気を出しています。そんな宮大工の世界で描かれる、寺社と人の(或いは神と人の)関係。そして準主役の、上乃光重朗の過去。苦い記憶を持ちつつも、それを捨てることなく未来へ向かおうとする姿が素晴らしかったです。
光重朗と実の母親との会話で用いられた演出も、有永イネさんらしさが出ていて良かったですね。

5月12日

12日に購入したのはこちら。


春の包帯少女1 (メテオCOMICS)

春の包帯少女1 (メテオCOMICS)

俺が童貞を捨てたら死ぬ件について 1 (メテオCOMICS)

俺が童貞を捨てたら死ぬ件について 1 (メテオCOMICS)

俺が童貞を捨てたら死ぬ件について2 (メテオCOMICS)

俺が童貞を捨てたら死ぬ件について2 (メテオCOMICS)


以上3冊。
何かと話題になっているようなので購入しました。
『俺が童貞を捨てたら死ぬ件について』はタイトルだけ見ると実にライトノベル的と言いますか、悪く言えば出落ち的な印象すら抱かせますが、実はかなり作り込まれたサスペンスでした。断片的な(未来の)記憶をたぐり寄せつつ、どうにかして15年後に訪れる最悪の結末を回避しようと奮闘する、SF的要素も併せ持った作品です。

5月10日

10日に購入したのはこちら。


さよならソルシエ 1 (フラワーコミックスアルファ)

さよならソルシエ 1 (フラワーコミックスアルファ)

名探偵マーニー 1 (少年チャンピオン・コミックス)

名探偵マーニー 1 (少年チャンピオン・コミックス)

名探偵マーニー 2 (少年チャンピオン・コミックス)

名探偵マーニー 2 (少年チャンピオン・コミックス)


以上6冊。やや奮発しました。
さよならソルシエ』は、昨年デビュー作となる短編集『式の前日』が大きな話題をさらった穂積さんの初連載作品。天才的な画商にして、後の天才画家フィンセント・ファン・ゴッホの弟でもあるテオドルスを主役に据えた伝記ドラマです。デビュー当初から新人離れした画力を見せつけた穂積さんが、この兄弟の業・宿命を如何に描き抜くのか。大きな期待を持って見守りたいところです。

5月8日

8日に購入したのはこちら。


囚人リク 11 (少年チャンピオン・コミックス)

囚人リク 11 (少年チャンピオン・コミックス)


以上3冊。
『囚人リク』、熱いです。実に熱い。リクとレノマを陥れようとする加藤看守と、二人を助けようとするレノマのファミリーとの熾烈な、しかし互いに顔を合わせることもなく繰り広げられる駆け引き・闘い。見事でした。
崩れ落ちる加藤看守(148ページ)の姿は、画家のモディリアーニのタッチを用いたものだと思いますが、何らかの影響があるのかなと考えてみるのも面白いですね。