マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

2016年お気に入りマンガセレクション

昨年は8月以降はまったく更新ができなかった訳ですが、まぁそれなりにはマンガは読み続けていましたので、2016年に読んだ作品で印象に残ったものを幾つか挙げてみようかと思います。


昨年末に参加したオフ会で5作品ほど挙げてみたのですが、それに少し追加しつつちょっとコメントを加えてみる感じですね。その際の様子は、以下のリンク先をご参照ください。


では早速開始。



ノー・ガンズ・ライフ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

ノー・ガンズ・ライフ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

大戦を経て、身体の一部を機械化した「拡張者(エクステンド)」と呼ばれる人間とそうではない生身の人間が共存するようになった世界を舞台とした作品です。
そんな世界で、拡張者にまつわるトラブル処理を生業とする「処理屋」をやっている乾十三が主役なのですが、彼の造形があまりにも秀逸といいますか、頭部が拳銃なのですね。
そして彼は「拡張者を遠隔操作できる技術」を持つ少年を保護したことから様々な事件・陰謀に巻き込まれていくことになる訳ですが、この作品、とにかくアクションから台詞回しから非常にスタイリッシュで素晴らしいです。


闇夜に遊ぶな子供たち 完全版

闇夜に遊ぶな子供たち 完全版

『死人の声をきくがよい』で知られるうぐいす祥子さんの、初期作品になります。昨年、単行本未収録だった回も含む完全版として復刊しました。
『死人の声をきくがよい』の原型とでもいいますか、恐怖・怪異が日常を侵食していく感じや、難を切り抜けるも根本的な解決は置き去られたままで絶妙な後味の悪さを残す読後感、まだ恐怖はそこに在り続けているという感覚、これぞホラー!という作品です。


これは昨年自分が『ガールズ&パンツァー』に大いにハマったことも要因としてありますね。戦車道がない高校に通う少女が、大洗学園の優勝に触発されて非公式の戦車戦「タンカスロン」を始めて周囲に波紋というか影響を及ぼしていく、という内容です。
いわゆるスピンオフ作品になる訳ですが、この作品の興味深いところは、(他のスピンオフもそうかもしれないのですが)二次創作で描かれるような独自設定・解釈を作品に取り込んで作品に昇華させているように感じるところですね。逸見エリカとかとりわけそういうふうに見える(と個人的には感じる)。
絵柄・台詞回しともに非常にクセがある作品なので好き嫌いは分かれるかもしれませんが、ハマる人はハマると思います。


上記リンク先でタイトル間違っていました。少々こっ恥ずかしいです。
戦後間もない時期を舞台にした、家族を皆殺しにされた少女の復讐譚です。掲載媒体「やわらかスピリッツ」との齟齬が光ります。
確か単行本発売前後に「劇画の復権はここから始まる」という惹句を目にした記憶があります。個人的に劇画を劇画たらしめるものに「戦争(この場合太平洋戦争)を引き摺り続けている人物が中心となっていて、それが作品全体に陰影を与えている」というものがありまして(必須ということではないです。『ゴルゴ13』とか白土三平作品とか例外を挙げるのは容易です)、そういう意味では実に劇画だな、と思う次第。
闇市や焼け跡の混沌とした雰囲気、飛び散る血飛沫と内臓、人間離れした生命力と理性の崩壊をもたらすクスリ等、まさしくエログロナンセンスカストリ雑誌的な描写に溢れています。


GUNSLINGER GIRL』でも知られる、相田裕さんの新作。元々は同人誌で発表していた『バーサスアンダースロー』という作品のリメイク版になります。
高校での生徒会活動を描く作品なのですが、この生徒会に所属する複数名(もしかするとほぼ全員かも)が何らかのかたちで挫折を経験していて、「自分の夢を掴めなかった人が、どう自分と折り合いを付けて別の生き方を見出していくのか」が描かれています。自分も年をとったのか、こういう題材が非常に心に沁みてくる訳ですな。


塹壕の戦争: 1914-1918

塹壕の戦争: 1914-1918

ここからはリンク先からは漏れた枠です。


BD(バンドデシネ)作品です。作者のタルディはBDの巨匠のひとりに数えられる方とのことですが、作品の翻訳は殆どなく、代表作にも数えられるこの作品はようやく昨年翻訳が出ました。
第一次世界大戦の最前線が、複数の一兵卒の視点から描かれていく作品なのですが、この作品の特徴として挙げられるのは、マンガ的な演出を可能な限り排除したマンガというところ。コマ割りは(一部例外を除き)単調な3段コマのみ。『Dreams』よりも単調。戦争を題材としながらも、オノマトペ(擬音)や集中線といったものも描かれない。更には、フキダシすら非常に少ない。四角い枠で囲まれたモノローグが殆どを占めています。
内容としては実にショッキングでありながらも非常に静的な構成になっていまして、読み進める際には一つ一つのコマとじっくりと向き合っていくかたちになります。淡々と積み重ねるように描かれる、死と隣りあいの塹壕での日常。読むとかなり体力を削られるような感覚がありますが、普段読むようなマンガとは違った読書体験が得られると思います。


卯月妙子さんの新刊です。
タイトルが示すとおり、前作『人間仮免中』の続き、その後の日々が描かれています。
前作については、4年半ほど前に長めの感想を書いているので、よろしければそちらも併せて。これまでに書いたものの中でも、かなり時間を掛けたものでもあります。


詳細は割愛しますが(余裕があれば別の機会に)、業火に呑まれ続けながら生きてきたような卯月妙子さんが、その彷徨の果てに遂に辿り着いた地平とでも言いますか。そこに辿り着けたことが、只々嬉しい。そんな作品です。



他にもいろいろありますが、このあたりで一区切り。
今年も面白いマンガを出会えるといいな、と考えつつ、本日はこのあたりにて。