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『たいようのいえ』における「家族」の描写:真魚は両親の新しい家族を受け入れられるようになるのか

【注意】幾分ネタバレ要素を含みますので、読み進める際はご注意願います。



先日、タアモさんの新作『たいようのいえ』を読みました。


たいようのいえ(1) (KC デザート)

たいようのいえ(1) (KC デザート)


ヒロインの真魚(17歳・女子高生)は、諸事情あって家に居場所がなくなってしまったと考えるようになります。
そして幼馴染みの基(23歳・新人プログラマー)は、両親が事故で亡くなり弟・妹が親戚に引き取られた後も、家族で暮らしていた家を一人で守って生活を続けています。いつか弟と妹を呼び戻して一緒に暮らそうと考えているのです。
そんな中、真魚の境遇を察した基は、真魚に自分の家で暮らすことを提案します。
そして少し奇妙でぎこちなく、それでいて心温まる同居生活が始まる訳です。


読んでいれば自ずと判ることですが、ヒロインの真魚がまた実に可愛らしい。
照れ隠しのなげやりな口調とか、しかし当然の如く隠し切れていなく頬を赤らめて目線をずらす仕草とかが、実に良いのですね。余談ですが、真魚の「〜だし!」という口癖、『咲』の池田ァを想起させます。(´ω`)



まぁ真魚のことについては他のサイト・ブログ等でも少なからず取り上げられていますので、ちょっと違った角度で何か書こうと思います。
たいようのいえ』を読んで個人的に興味深かったのが、「家族」というものの描かれ方です。それについて書くには、まず上で「諸事情」と書いた、「真魚が『居場所がなくなった』と思うようになった経緯」について触れる必要があります。


真魚は、「自分の両親」と「家族の居場所」を非常に重要なものとして位置付けています。
巻末に収録されている番外編「泣かない女の子」は幼少期の真魚と基の家族のエピソードですが、その中の台詞「お父さんとお母さん わたしが泣くと仲悪くなるから」*1からもそれが窺えます。
しかし両親の溝は埋まることがなかったようで、離婚することになります。
その際に描かれるのがこの場面です。



タアモたいようのいえ』1巻9ページ。)


まだ真魚が小学生あたりの頃に、母親が自分の再婚相手を家に連れてくる場面です。
真魚のショックが、ありありと伝わってきます。そして父親と母親どちらと一緒に暮らすのかを選ぶことになり、父親を選びます。父親はかなり無愛想な性格らしく、あまり会話をすることはない。しかしただ黙って一緒にいるだけの時間も、真魚は嫌いではなかったということも描かれます。


そして数年が過ぎ、真魚は17歳になります。
すると今度は、父親が再婚することになるのですね。既に家には再婚相手と連れ子、つまり義母と義妹が暮らしています。



(同書26ページ。)


こちなさを見せつつも、上手くやっていきたい(と思われる)義母の様子が窺えます。
そして真魚もそれに応えようとするも、なかなか思うようにはいかない訳です。



(同書27ページ。)


自分の居場所がなくなってしまった、と真魚が認識してしまう場面です。
これまで自分が座っていた、父親と一緒に過ごしていた場所に、義妹が座っている。自分が座る場所がなくなっている、そう捉えてしまい、その後に続く義母に対しての返答もぞんざいなものになってしまっています。



これらの場面から読み取れるのは、真魚は自分が帰属している場所に入り込んでくる存在(回りくどい言い方になりましたが、この場合は両親と自分のあいだに入り込んできた「新しい家族」)に対して強い忌避感を抱いているという点です。両親と自分、つまり「家族」という空間を掻き乱す存在というふうに感じているということですね。


そして真魚自身は、図らずも自らが忌み嫌う場所に立ってしまっている(であろう)ということに気付いていない。
上記の事情で、真魚は基と同居することになります(同居を提案したのは基です)。
基の家に転がり込むようなかたちで暮らし始めた真魚の立場は、実のところ真魚の家に住み始めた父の再婚相手(とその娘)や、母親の再婚相手と何ら違わない。
1巻の最後、基が弟の大樹に出したメールの返信が来ます。そこには「真魚が家にいることに関しては反対だな」*2とあります。それは真魚が両親の再婚相手に対して抱いたのと同じ感情から書かれた文章かもしれません(違ってたら嗤ってやってください)。



案外、(母親のほうはどうか判りませんが)父親のほうは真魚の立場・心情を少なからず理解しているのではないか、という気もするのですね(理由は「何となく」ですが)。そのうえで、真魚を基の家に預けているのでは、と。まぁどちらかと言うと個人的な願望ですね。
ともあれ、新たに家族を作ろうとする際には何らかの軋轢が生じる、そしてそれを理解し受け入れることができるのか、という点がこの作品の鍵ではないかと感じています。



真魚や基たちがどのような「いえ」を造り上げていくのか。
今後の展開に注目です。

*1:タアモたいようのいえ』1巻160ページ。

*2:同書158ページ。