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時折マンガの話をします。

エロマンガの現在を切り取る。『Eromanga Lovers Vol.4』

引き続き、夏コミで購入した同人誌の紹介となります。
今回取り上げるのはこちら。



『Eromanga Lovers Vol.4』(サークル:New Wave Of Japanese EroManga Critique)


こちらはエロマンガレビューサイトの最高峰と言って差し支えないでしょう、ヘドバンしながらエロ漫画!管理人へどばんさんのサークルです。『Eromanga Lovers』に関しては、記念すべき1冊目のご紹介をしたこともあるので、よろしければそちらも。

(因みにこの記事、へどばんさんの文体模写をしてみたのですが、物凄く時間が掛かりました。あのクオリティでほぼ毎日更新することが如何に離れ業か、改めて実感できた次第です。マクラに『フラクタル』の話をしているのはご愛嬌ということで。)



今回の Vol.4 は「作家アンケート編」と銘打たれています。
その副題からも判るとおり、現役のエロマンガ家の方々に大々的なアンケートを敢行し、そのデータに基づいて現在のエロマンガを巡る状況を分析した内容となっています。回答者の人数は、何と117名。4ページに回答者一覧が掲載されていますが、錚々たる顔触れです。
因みに質問事項は43。それについては、現在ネットで閲覧することが可能です(解答はできないとのこと)。


リンク先を拝読すれば判るかと思いますが、非常に幅広い内容で、且つ精緻を極めた質問となっています。
それでいて、回答率が異常に高い。43の質問のうち、回答率95%以下のものは6つしかない。90%以下であれば僅かに3つ。質問設定の巧さと、膨大且つ的確なエロマンガレビューで築きあげてきたへどばんさんに対する信頼故でありましょう。


そして『Eromanga Lovers』シリーズに通底しているのが、現在のエロマンガ批評に対する忸怩たる思いと、批評をより建設的且つ豊穣なものにしたいという、痛切なまでの願いですな。各シリーズの序文の行間からは、それが滲み出ている。
批評を行う人たちが、共通認識・バックグラウンドを持つことなく、ごく主観的な判断から「エロマンガから多様性が失われている」と発言し、それがまかり通るような状況を厳しく批判している訳です。それもあり、Vol.1〜3 においてはエロマンガの構成要素に着目し多様性を捉え直す、言うならば「エロマンガ原論」的な同人誌を作成した、とのこと。
実際のところ、エロマンガについてしっかりと何か語る・書こうとするのであれば、この3冊は必ず通過しておくべきというレベルの内容だと思います。


それでもまだ、共通認識を得るには至っていないと、へどばんさんは考えている。
それを形成するために「十分なデータ数を持つ統計的資料が評論の基礎として必要」*1と考えた結果、生まれたのが『Eromanga Lovers Vol.4』であるという訳です。


『Eromanga Lovers Vol.4』の構成は、見開きの右頁にアンケート結果が公開され、その結果に基づく分析・考察が左頁に執筆されています。この結果が実に面白い。掲載誌と他誌との掛け持ちの比率から、雑誌の勢い・特徴が浮き彫りになってきたり、原稿制作の特色が見えてきたり、「得意ジャンル・趣向」と「描きたいジャンル・趣向」の違いが明確に現れてきていたり、その他諸々の発見があります。ジャンルの違いとかに関しては、プロとしての意識も感じますね。


「業界の近況に関するもの」の質問も興味深い内容でした。電子書籍や都条例改定(またはそれに対するアクション)、その他懸念材料についての質問(質問35以降)に対しても多くの解答が寄せられ、これらの問題に真摯に向き合っているのだという印象を受けました。


目標とする・或いは尊敬するエロマンガ家さん、注目している新人エロマンガ家さんのアンケート結果も発表されており、これも非常に興味深い内容となっています。この箇所だけでさえ、ガイドとして非常に有益なものと感じる次第。


「エロ漫画の現在を考察するために有用なデータとなった」*2というへどばんさんの確信は、間違っていないと思われる。あとは、このようなデータが蓄積されていくことにより、エロマンガの流れ・歴史が浮かび上がるようになる筈。国勢調査みたいに定期的に行われるのが理想でしょうか。
ほんらいはこういった調査が個人でしか行われていないというのが問題かな、という思いもありますが、そのようなことを書いてしまうと「評論を担うと自任する者は、やるべきことを誰か他者が代行してくれるのを待つのではなく、例え不完全であっても自らが能動的に行わなければならない。」*3と力強く宣言するへどばんさんに一喝されそうですな。(´ω`;)



と、自戒を込めつつこのあたりにて。
エロマンガの現在を鮮やかに切り取った『Eromanga Lovers Vol.4』、必読の1冊です。

*1:『Eromanga Lovers Vol.4』4ページ。

*2:同書5ページ。

*3:同書5ページ。