マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『囚人リク』に登場する革命の闘士・田中一郎について

先日、『囚人リク』の最新刊を購入しました。


囚人リク 13 (少年チャンピオン・コミックス)

囚人リク 13 (少年チャンピオン・コミックス)


既に13巻まで刊行されている訳ですが、作品の熱量は未だ衰えることはなく、読み始めたらページをめくる手が止まらないこと請け合いです。
この巻では、表紙を飾っている(元)革命の闘士・田中一郎が物語の中心になります。
隕石直撃により壊滅状態に陥った東京を、スラム街の隔離・武力制圧を手始めとする政策で支配下に置いた警視総監・鬼道院。非合法な行為にも手を染め、絶大な権力を手にしている彼の支配体制を打破するため、田中一郎は「東京革命党」を率い、活動を続けていた訳ですね。
そして彼は、度重なる投獄にも関わらず、脱獄を繰り返し成功させてきた。脱獄のスペシャリストでもある。そして遂に、「脱獄不可能」とされる極楽島特級刑務所へと収監されてしまいます。そして、鬼堂院が手を下した、とある卑劣な行為を契機に、鬼堂院への復讐ならびに脱獄を決意。密かに脱獄の計画を進めていたリクとレノマへと接近し協力を申し出るが・・・という流れ。



ところで、田中一郎には、モデルとなった(であろう)実在の人物がいるのってご存知でしょうか?
その人物の名前は白鳥由栄。「昭和の脱獄王」とも呼ばれた人物です。かなり有名なエピソードも多く残している人物なので、ご存知の方も多いかもしれませんね。




(瀬口忍『囚人リク』13巻104〜105ページ。)


極寒の独居房で、脱獄の準備を重ねる場面。
リクとレノマに請われ、これまでの脱獄について説明している箇所になります。103〜109ページにかけて描かれる4回目の脱獄は、田中一郎の脱獄に賭ける執念が見事に表現されている箇所なので、是非ご一読願いたいところですね。
そして上の画像で、鉄格子にみそ汁をかけて腐食を進ませつつ、毎日そこを揺らして軋ませていく様子が描かれています。


これが、白鳥由栄が実際に行った脱獄方法なのですね。
白鳥由栄が3度目となる、網走刑務所からの脱獄を行った際に用いられた手段です。
詳細については、wikipedia の「白鳥由栄」の項目や、以下のサイト等をご参照戴ければと。


因みに田中一郎と白鳥由栄の脱獄回数が共に4回である他、身体の関節を容易に外すことができるという能力も共通しています。
言うまでもなく、何から何まで同じということはありません。みそ汁に加えて胃液も吐きかけるというのは瀬口忍さん独自のアレンジですし、それ以外の描写にも同様のことが言えます。人物像はまるで異なりますしね。




(同書34ページ。)


田中一郎が、「脱獄」という行為についての持論を展開する場面。
この信念・価値観は、映画『大脱走』や『パピヨン』、『ミッドナイト・エクスプレス』に近いかな、とも感じます。
そして、このポージングにも注目して戴きたいところ。


3ヶ月ほど前に書いた上の記事でも若干言及しましたが、独特のポージングが加藤看守から田中一郎に受け継がれています。歌舞伎やオペラにも似た、様式美の世界が確立しているようにも感じられます。そして、この巻における極致がこのコマでありましょう。



(同書145ページ。)


脱獄方法を、象徴的に伝える場面。
「俺たちは 鳥になる」。
人生で一度くらいは使ってみたい詩的な台詞。
そしてこの、悟りを開いたかのような表情(実際には鬼堂院への憎しみが燃え上がっている訳ですが)と立ち姿。
もしかすると、加藤看守のポージングはこのコマに向けた布石だったのでは、と邪推してしまうほどの、印象的な1コマとなっています。



難攻不落の刑務所からの脱獄計画は、田中一郎が加わったことで少しずつ明確なかたちを取り始めていきます。今後どのような困難が待ち受けるのか、それを如何に切り抜け、そしてどのような結末を迎えるのか、今後の展開が気になって仕方がない作品です。
といったところで、本日はこのあたりにて。