マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『雷とマンダラ』と、「ガンダム紙切り」について書いておこう

昨日、遅ればせながら『雷とマンダラ』を購入しました。


雷とマンダラ

雷とマンダラ


今回は作中でも触れられている「ガンダム紙切り」について、ちょっとした思い出話も絡めつつ書いてみようかと思います。既に知っておられる方も多いかなとは思いましたが、あまり気にせず。(´ω`)


『雷とマンダラ』はぶんか社から出ている「本当にあった笑える話」で連載されているとのこと。*1
作者は雷門獅篭さん。元々は談志一門の立川志加吾という名前でしたが、平成14(2002)年の立川一門前座全員破門騒動により職を失い、当時「モーニング」で連載していた*2『風とマンダラ』も連載中止。新天地としてやって来たのが名古屋にある大須演芸場「日本で一番お客がいないことで有名」な、伝説の演芸場とのことです。お客さんが1人しかいない状態で舞台に上げて芸を手伝ってもらったり、お客さんゼロで公演中止になったりしたことも作中で面白可笑しく取り上げられていますよ。


『雷とマンダラ』は演芸場での数々のエピソードや、大須演芸場にいる(或いはいた)様々な芸人さんの話が描かれます。
掲載誌が掲載誌だけあって、エロ系の話も結構あったりします。*3
大須演芸場の看板描きをしている「カッパさん」のエピソードなど、最早笑いを通り越して感動的ですらあります。是非とも読んで戴きたい!


因みにこの作品については、既に情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明の soorce さんが取り上げています。


で、soorce さんのブログでも言及され、『雷とマンダラ』でも多くのページが割かれているのが、伝説の紙切り芸人・大東両閣下(1928〜2006)のことです。
元々は浪曲師として芸の世界に入り、紙切りを含む様々な芸を独学で身に付けていったそうです。列挙してみると、

  • 浪曲(これを演ずる際は寿々木冨士若の芸名)
  • 紙切り
  • 南京玉すだれ
  • ガマの油
  • バナナの叩き売り
  • 獅子舞
  • 三番叟*4
  • 曲芸
  • 皿廻し
  • 紙芝居
  • ギター漫談
  • ギター流し
  • 落語
  • 講談
  • 物真似
  • その他


だそうです。( ゚д゚)
最も有名な紙切り芸も、他の方が演じるのを見て「これだったら俺にもできる」と始めたそうです。そしてそれが超絶的な技巧なのですよね。日本で唯一、背中に紙とハサミを回した状態で紙切り芸ができる方だったらしい。



(こんな感じ。『雷とマンダラ』60ページ。)


そして大東両閣下、「切れないお題はない」がモットー。それを聞いた雷門獅篭さん、シャアを切って欲しいと頼んだのだそうです。*5
そして出来上がったのがこれです。



予備知識ゼロで、しかもその時既に75歳くらいの方がこれを切っただけでも驚愕です。しかし閣下は出来に不満だったらしい。そこから自分でガンダムを研究し始めたそうです。古本屋に行ってロマンアルバムとか捜してきたのだとか。
そして研鑽の結果は更に驚くべきものに。



ビグザムです。初めて見たときは感動で目頭が熱くなったことを記憶しています。
ディテールの細かさを見れば見るほど、これが一枚の紙だということが信じられないですね。そして閣下の作った数々のモビルスーツ雷門獅篭さんが自らのサイトにアップしたところ多くの反響を呼び、遂にはNHK-BSのガンダム特集番組に出演するまでになったのは、少なからぬ方がご存知のことかと思います。
・・・僕の家にはBSが無いので(当時は)知らなかったのですがね。(ノД`)


因みに雷門獅篭さんのサイトに、それらの作品がアップされています。未見の方は是非とも。


紙切り1年戦争」では、ガンダム紙切りの実演をダウンロードすることもできます。これもまた必見。*6
そしてこの「ガンダム紙切り」、本当は実演を生で見ることができる筈でした。
『雷とマンダラ』に、このようなコマがあります。



(68ページ。)

いよいよ東京にて800人以上のオタクの前で披露することになったが体調不良で緊急入院−


とあります。
僕はこの「800人以上のオタク」の中の一人でした。
実演を行う筈だったイベントは、「日本トンデモ本大賞2006」です。*7物凄く楽しみにしていただけに、出演できなくなったことを知ったときは非常に残念でした。
イベントでは病床からのメッセージと実演のビデオ上映が。作品が映し出される度に会場内から大きなどよめきが起こっていたことを記憶しています。そして上の画像にもありますが、代理で雷門獅篭さんが「ガンダム落語」を披露。古典落語の「箍屋」をベースに、ガンダムネタを随所に絡めたものでした。これもまた、実に笑わせて戴きました。


そして「いつか実演も生で見たいな」と思っていた矢先、大東両閣下逝去。
日本トンデモ本大賞2006」開催の、僅か3日後のことでした。「嘘だと言ってよバーニィ!」といった気分でしたね。
その2ヶ月後に開催されたコミックマーケット70で頒布された同人誌、『「本家立川流」増刊号』の大東両閣下追悼号も迷わず購入しました。



(soorce さんと初めてお会いしたのは今年の8月でしたが、その2年前に既にニアミスはしていたようです。)


この記事を書くにあたり改めて読み返してみましたが、つくづく凄い人だったのだなと感じました。この同人誌も、是非とも多くの方に読んで欲しい一冊ですね。


そしてこの「ガンダム紙切り」、一代限りのものかなと思っていたのですが、大東両閣下の蒔いた種は確実に芽吹いていたようです。雷門獅篭さんのサイトで紹介されていた、紙切りを行っている方のブログです。


大東両閣下に影響され紙切りを始めたようですが、ブログを拝見したところ見事な腕前です。
コミケにも参加して、作品を販売しているとのこと。仕事の都合上コミケに行けるかどうかは不透明ですが、もし行けるようなら是非立ち寄ってみたいですね。


さて、随分長くなったので今日はこんなところで。


(大東両閣下がガンダムを研究する際に参考にしたと思われる本。因みに復刻版です。)


切り絵ブック?30分で脳トレ完了

切り絵ブック?30分で脳トレ完了

(大東両閣下が書いた紙切り入門。)

*1:さすがに「本当にあった○○話」系の雑誌まではチェックし切れていないです。たぶん10種類以上あるんですよね。

*2:噺家兼マンガ家なのです。

*3:実話系雑誌は恐らく「マンガ好き」とは異なる層をターゲットにしていると思われるので、エロ、ホラー、修羅場、ゴシップといった話題が多い印象。非マンガ的で且つ読者を引き寄せるとなると、自然とそういう内容に傾く訳です。

*4:調べた限りでは、猿楽狂言の一種かな?「さんばそう」と読むようです。

*5:雷門獅篭さんは屈指のガンダムオタクとして知られています。ガンダムのみならず「藤子不二雄ランド全301巻所持」とか「ファミコンソフトは700本以上所持」とか(いずれも作中にてネタになっています)、筋金入りです。藤子不二雄ランドは本気で羨ましい!

*6:ニコニコ動画にもアップされていたけど、ここからダウンロードしたものを勝手にアップしている可能性があるので紹介は控えます。

*7:ネット界隈、とりわけはてな近辺では「と学会」の評判は芳しくないようですが、僕はこのイベント毎年楽しみにしています。