マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

ほんとうの地味子の話をしよう

2010年11月現在の話ですが、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のアニメが放映中です。


容姿端麗・成績優秀・運動神経抜群と三拍子揃っていると共に実はエロゲー大好きという妹・桐乃とか、ゴスロリ服を身に纏い痛い発言も多々行う黒髪美少女・黒猫とか(先日発売された7巻の展開が随分話題になっていましたな)、典型的な一昔前のオタクファッションでキャラ作りを行いつつ実は眼鏡を外すと・・・と更に一昔前の少女マンガ的な側面も持ち合わせている沙織・バジーナとか、なかなかに印象的且つ華やかな女性キャラクターが多々登場する作品です。


そんな中、主役(語り手)である京介の幼馴染み・田村麻奈美は、桐乃から「地味子」と呼ばれ嫌われています。どうやら桐乃には、麻奈美は京介を籠絡せんとしているように見えるらしい。まぁいろいろと複雑な感情が入り乱れつつの蔑称といったところでしょうか。


しかし、地味子はそんなに地味であろうか?
周囲が群を抜いて美少女であるために相対的に地味に見えるだけで、実のところかなりの美少女であろうと考える訳です。
ほんとうの地味子はこうであろう、と。


野田ともうします。(1) (ワイドKC Kiss)

野田ともうします。(1) (ワイドKC Kiss)

野田ともうします。(2) (ワイドKC Kiss)

野田ともうします。(2) (ワイドKC Kiss)


という訳で今回は、柘植文さんの『野田ともうします。』をご紹介します。
この作品、地味に面白いのですわ。


上の表紙に描かれているのが野田さんです。地味な外見ですね。
大学生です。一年生です。とてもそうは見えませんな。
活字中毒で、所属する学科はロシア文学科。何という絶妙な選択。
更に書くと、入っているサークルは手影絵サークル。両手を組み合わせて犬とか鳩のシルエットを作ったりするあの影絵です。地味だ!


しかしそんな野田さんの存在自体が地味かというと、不思議なことに真逆です。
地味を徹底することで、圧倒的なまでにキャラクターが立ち上がっているとでも言いましょうか。またこの野田さん、同年代の殆どの女性とは決定的なまでに興味の方向性が乖離してしまっているのですが、無闇に好奇心旺盛で且つ行動力もあるのですな。合コンに参加してみたりもするのです。



柘植文野田ともうします。』1巻4ページ。)


そしてそこで石波防衛大臣のモノマネを披露してしまい周囲の空気が凍り付いたりするのですな。(´ω`)
このズレた感覚、素晴らしいですね。で、野田さんはけっこうモノマネが好きなのか、子供の頃からやっていたりもするのですが、これがまた見事なまでに僕の心の琴線を捉えるのですな。



(同書2巻8ページ。)


バイト先であるレストランの喫煙席に入り、立ち籠める紫煙の中を通り抜けたところ、何故か自分が後悔している過去に戻ってしまうというエピソードが描かれます。そこで描かれるのは、お楽しみ会に向けて広沢虎造が演じる「国定忠治」のモノマネを練習している小学三年の野田さんを、ウケないし喉をつぶしてしまうからと止めようとしている現在の野田さんです。
で、こちらが広沢虎造浪曲国定忠治 名月赤城山」。



他にも、各エピソードの間に挟まれるイラストがありまして、そこで取り上げられるお題(のようなもの)が、実に野田さんらしい独特過ぎる着眼点で面白いのです。



(同書2巻74ページ。)


お題?は【タンブルウィード】。「野田が最近人に説明した言葉。」という解説が添えられています*1。自分も随分前に「西部劇でコロコロ転がってる草みたいなやつ」の正式名称が「タンブルウィード」だということを淀川長治さんの本か何かで読んで誰かに教えたくてたまらなかった経験がありますよ。


まぁそんな野田さんなので、当然のことながら大半の人からは奇異の目で見られたりもする訳ですが、それを気にもしていないのか或いは気付いていないのか、それとも半々なのか、そんな視線は存在しないかのように野田さんは我が道を驀進していくのです。そしてそんな野田さんの近くに集まる人たちは、これまた独特な人たちが集まるようです。
とりわけいい味を出しているのが、友人の重松さんでしょうか。



(同書1巻30ページ。)


やはり見た目は地味ですね。しかしこの重松さん、回を重ねるごとにキャラクターがバシバシと立ってくる。
最初は「殆ど何も喋らないが心の中では饒舌」という性質だけが与えられています。そして野田さんの分析を行ったりしているのです。



(同書1巻76ページ。)


その後、どうやら家が大富豪らしいということが明らかになる。
パーティーを開く為の準備をこつこつと進めたりするエピソードもあったりして、無口だけど集まるのが好きらしいというのが判ってきたり。
そして2巻の後半では、異様なまでの大食いであることも明らかになってきます。

第49話「果てしなき世界」は、店の壁すべてがメニューの短冊で埋め尽くされている定食屋が舞台となります。
その「定食屋のメニューの果て」を見たい、メニューをすべて食べきればその果てが見えるのでは、と野田さんが重松さんに熱く語り続ける場面があります。その場面がこちらになります。






(すべて同書2巻94ページ。)


コマが変わる度に別のものを食っているんですな。
そしてこの会話の後、財力と胃袋の力をもって「果て」を見せてあげようと、野田さんと一緒に定食屋に赴いてそこでも延々と食べ続けるのです。
うおォン まるで人間火力発電所と思わずにはいられない。


そういえば、野田さんは群馬出身という設定*2なのですが、



(同書1巻48ページ。)


学祭でサークルの出し物をする際、一緒に食べ物も売ろうという話になり、当り前のように焼き饅頭の看板を作成するのです。
この「焼き饅頭」、『孤独のグルメ』でも登場しましたね。もしかすると影響があるのかもしれませんな。



何だか自分でも書いていてよく判らない文章になってしまいましたが、この作品じたい、『孤独のグルメ』と同じく、派手さは皆無ですが何ともクセになってしまう味わいを持っていると思います。
ドラマも始まっていることですし*3、この機会に読んでみるのも良いのではないかと。


という訳で、今回はこのあたりにて。

*1:上の画像から切れてしまっていますが、右側に書かれています。

*2:作者さんも群馬出身とのことで、群馬の豆知識が作中に多数ちりばめられています。

*3:NHKワンセグ2にて、10月29日より配信中。