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時折マンガの話をします。

人の世は、今も昔も色好み:『日本のいろもの古典』

今回の記事は内容の都合上18禁とさせて戴きます。
18歳未満の方はご遠慮願います。以下の文章も収納しておきます。






今回ご紹介する同人誌はこちらです。



『日本のいろもの古典』(サークル:秘本衆道会)


作者さんのブログはこちら:秘本衆道会

古典作品を紹介する同人誌です。
しかしタイトルから推察できるように、何も『更級日記』とか『徒然草』みたいな拡張高い古典文学を紹介するものではありません。そしてこの「いろもの」には2通りの意味が込められているように思われます。
1つはそのものズバリ「イロモノ」、つまり王道・スタンダードからは外れているという意味、そしてもう1つは「色」もの、「色好み」とかの「色」です。とどのつまりエロです。


この同人誌では、『源氏物語』や『好色一代男』等の有名作品ではなく、学校教育では決して取り上げられないような作品に描かれたエロを紹介しています。
現代日本におけるエロは、二次・三次問わず相当に先端を走っており、且つバリエーションも豊富であろうと思われます。そしてエロ産業における創造力と言いますか妄想力と言いますか、それに類する謎のエネルギーにはただ驚嘆するばかりです。そしてその創造力・妄想力は、数百年の昔から連綿と息づいていることを読者に知らしめる1冊となっています。


堅苦しい文章よりも、実際に目で見たほうが判りやすいかと思いますので、こちらをご覧ください。



(『日本のいろもの古典』5ページ。)


見てのとおり、ディルドーですな。当時は張形と呼ぶのが一般的であった模様です。
そしてこの図版は『好色訓蒙図彙』という、性の百科事典的な書物に掲載されているとのことですが、『好色訓蒙図彙』が出版されたのは1686年とのこと。今から300年以上前に、既にエログッズは存在していたということですな。主に水牛の角とか鼈甲とかで作られ、中は空洞になっていて、熱い湯で湿らせた綿を中に入れて暖めた状態で(つまり人肌の暖かさで)使うとのこと。如何に本物に近付けるかという努力が伝わってきますな。


因みに19世紀初頭(江戸時代後期)に刊行された『枕文庫』という書物には、



(同書7ページ。)


女性が2人同時に使う張形(両首とか互形とか呼ばれたそうです)、今で言うツインディルドーも紹介されているとのこと。


さて今挙げた2つは何れも女性が用いるものです。
では男性用の器具はなかったのか?
春画片手に竿を操るか、それとも実際に事に及ぶのみなのか?
このような疑問も浮かび上がることでありましょう。無論存在します。



(同書9ページ。)


吾妻形。つまるところオナホールですね。
この図も元々は『好色訓蒙図彙』に収録とのことなので、300年以上前に既にオナホールは存在しているということになります。この「吾妻形」は明治時代に至るまで作られた大ロングセラー商品で、鼈甲を薄く仕上げて舶来物のビロードを重ねて仕上げた高級品とのこと。明治時代の教師の月給1〜2ヶ月分に相当したそうです。畏れ多くて使うのを躊躇われるほどですな。



(同書11ページ。)


そしてさすがに高級品であった故か、代用品も当然存在したとのこと。上図は蒟蒻を用いたものです。蒟蒻を道具として用いるという話は度々耳にしたことはありますなぁ。他にも瓜を用いる方法があるとか何とか。



さて、この同人誌ではこれら「器具」の解説が為されている事典類のみならず、説話集や謡曲といった古典文学の紹介も為されています。言うまでもなく下ネタの百花繚乱で、教科書が学究の場においては封殺されること必至という作品ばかりです。
そしてそれらの中でも一際輝きを放っているのが、平賀源内の著作です。


平賀源内と言えばエレキテルとか土用の丑の日を最初に始めた人だとか、そういうエピソードで知られる発明家ですが、それ以外にも文筆業においても特異な才能を発揮していたとのこと。この同人誌において紹介されているのは、『男色細見』シリーズ、『放屁論』『長枕褥合戦』の3作品。タイトルだけでも不穏な何かを感じずにはいられませんね。(´ω`)



『男色細見』シリーズは、春を売る少年たちが集まる色街のガイドブックです。平賀源内が男色家であったという話はどこかで聞いたことがありますが(この同人誌においても言及されています)、その嗜好を存分に奮った1冊となっています。図版も収録されているのですが、その精緻さには舌を巻くばかり。更には数度に及ぶ改訂も行っていたとのことで、平賀源内の少年に対する情熱・或いは執心にはただ圧倒されるばかりです。


続けて『放屁論』はほぼそのまま、見世物小屋にいた「屁で音楽を奏でる男」を賛美した内容とのこと。
水木しげるセンセイが大喜びしそうな本ですね。


そして『長枕褥合戦』は浄瑠璃の脚本です。
内容を要約すると、どうやら源頼朝亡き後の北条政子が夜の相手の不足に嘆き、全国津々浦々から巨根の男を呼び寄せて品定めしたり、自らの巨根をもって北条政子を籠絡し天下を我がものにせんとする悪漢・梶原景時が出てきたり、あまりにも永い間濡れ事から離れていたために気の病に倒れた政子を救うために「とある液」を大量に集めようとしたりするそうです。
そしてその内容故に、過去1度たりとも上演されたことはないとのこと。
上で触れた「品定め」の箇所が引用されているのですが、この本文があまりにも凄まじいのでこちらでも一部引用させて戴きます。

先づ一番に進みしは越前介平川かつ、前皮外せし振男根(まら)に、ひときは目立つふくろづの、番場忠太が筆頭に、六寸二部と記したり、次ぎに出づるは筋太く、くわつと開きし松茸なり、太井三郎頭高(かりだか)と、名乗つて通る郭公(ほととぎす)、後へ出づるは住前髪、珍宝太郎と名乗れども、男根は中指二つ伏せ、さぞ成人の、その後は、


(中略)


湯屋で幅の利く名主の男根、長屋ででしやらばる家主(おほや)の男根、砥粉のついたが砥屋の男根、五色に染めたが紺屋の男根、死脈の打つは医者の男根、抹香臭いは坊主の男根、四角に力む新吾郎男根、女郎の厭がる座頭の男根、士農工商打ち揃ひ、世に覚えある男根の数々、男根男根男根(まらまらまら)と居並んで、御用いかにと待ち居たる


(同書43ページ。)


この驚異的なレトリック、馬鹿馬鹿しさを遥かに突き抜けて感動的ですらあります。
こちらの引用は長さの都合上少々略しましたが、同人誌のほうにはこの倍くらいの文章(内容はほぼ同じ、技巧を尽くした男根描写)が掲載されています。是非とも一読して戴きたい、できれば朗々と読み上げて欲しい一文です(ほんとうに流れるような文章なのですな。内容は筆舌尽くし難いひどさですが)。


性にまつわる人の執着は、数百年にもわたり営々と積み重ねられていることが実感できる1冊です。
関心がある方は、是非読んでみてくださいな。
では少々長くなりましたので、本日はこのあたりにて。