最期の日々を作品として昇華するのは、大変な才能が必要なのだろう
長らく更新が途絶えていました。
怠けていたという訳ではなく、まぁある程度は怠けていたかもしれませんが、仕事が何かと忙しかったのに加え、ここしばらくは別の事情も絡んでいました。
数日前、父が亡くなりました。
昨年夏に胃癌が見つかりまして、その時点で既に肝臓にも転移していて、手術もできないような状態だったとのことです。
見つかったときには自覚症状もなかったようで、家族全員(恐らくは本人含め)ほんとうかと疑ったくらい元気に見えました。治験のかたちで抗がん剤治療も受けていたようですが効果は芳しくなく、3月の時点で緩和ケアに移行。その頃から急激に衰えを見せはじめ、数日前に息を引き取ったという知らせを受けました。
(葬儀場近くにて。桜が散るのと時期を同じくして父は逝った訳ですが、それと対照を為すかのように、近くの空き地には春の草花が多数芽吹いていました。)
通夜やら葬儀やらもどうにか一段落付き、このような文章を書いているという次第です。
自分はマンガばかり読んできた人間ですので、どうしても癌が題材として取り上げられる作品のことを思い起こしてしまいます。これはもう、業みたいなものかもしれません。
(以下、作品のネタバレを含みます。読み進める際はご注意ください。)
少し前の作品だと、山本直樹さんの名作『ありがとう』があります。
- 作者: 山本直樹
- 出版社/メーカー: 小学館
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壊れてしまった家族を元の姿に戻そうと奮闘する父親・鈴木一郎を主役とする物語です。連載当時(1994〜1995年頃)の社会問題も反映させつつ、家族の在り方を問いかける作品。そして鈴木一郎は癌を発症していることを家族にも隠しつつ、強い絆で結ばれた家族を作り直そうと孤軍奮闘を重ねるのですが、その奮闘が更に家族をバラバラにしていく事実に直面し、ある決断をするのです。
少し時代を下ると、カラスヤサトシさんの『おのぼり物語』を挙げることができます。
- 作者: カラスヤサトシ
- 出版社/メーカー: 竹書房
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この作品はカラスヤサトシさんの自伝的内容となっていまして、上京してから連載を持ち始める時期までが描かれています。映画化もされているので、ご存知の方は少なくないかもしれません。
作品の後半で、カラスヤサトシさんのお父さんが癌で入院するエピソードが描かれ、4コマ作品のイメージを覆すかのようなシリアスさを帯びてきます。しかしながら淡々と描かれる最期の日々。個人的には、カラスヤサトシさんの作品でも最もお気に入りの1冊です。
映画化というと、近く公開される予定の『海街diary』の5〜6巻にも、癌にまつわるエピソードがあります。
- 作者: 吉田秋生
- 出版社/メーカー: 小学館
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海街diary 6 四月になれば彼女は (flowers コミックス)
- 作者: 吉田秋生
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舞台となる鎌倉にある大衆食堂「海猫食堂」の店主・幸子さんが、母親を看取り、ローンの支払いも終わり、ようやくこれからという時期に末期癌であることが判明し、緩和ケア病棟で最期を迎えます。遺産相続という問題も同時に扱われ、そこでは幸子さん(や周囲の人たち)の悔しさや、妥協を受け入れる覚悟といったものが描かれます。
シリーズ屈指の哀しさ・痛切さに満ちているエピソードですが、それでも人生は続いていくのだな、ということを感じさせる、「強い」物語だと思います。
そういえば、この作品の主役四姉妹の父親も、胃癌で亡くなったという筋立てでした。
比較的最近では、武田一義さんの『さよならタマちゃん』も話題になった作品です。
- 作者: 武田一義
- 出版社/メーカー: 講談社
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精巣腫瘍を発症してしまった武田一義さんの闘病生活を描いた作品。がん病棟で知り合った人たちのエピソードから、苦しい治療・副作用、後遺症の発症、再起・初連載に至るまでを、どこまでも真摯に描き抜いた珠玉の名作です。
他にも、これは映画になりますが、黒澤明監督の代表作のひとつにして、日本映画史上屈指の名作『生きる』も、胃癌に侵された市役所の市民課長を主役に据え、生きる意味とは何か、生きるとはどういうことなのかを問いかけた作品でした。
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と、癌が題材になった作品を幾つか挙げた訳ですが、こういった作品を思い返して痛感したことは、記事タイトルにもしたように、最期の日々を「物語」というかたちに昇華することは、実は大変な才能なのかもしれないな、ということです。
これらの作品は、物語として非常に美しい。
現実は、もっと身も蓋もなさに溢れているのだな、と感じています。
『ありがとう』の鈴木一郎は家族を元のかたちに戻そうと懸命に、それこそ命を削って奮闘する訳だが、自分の父はどちらかというと、壊す側に立っていたような印象がある(自覚はしていなかったように感じる)。
『海街diary』の幸子さんは、自らの死後のことについて「妥協」を受け入れた訳だが、父は(少なくとも晩年は)自分の都合・体面だけで行動し、湯水のように浪費をしていたように見える。
カラスヤサトシさんは『おのぼり物語』の映画版公開に合わせたインタビューで「正直いうと、きれい事のエピソードを選んでいます」と言っているが、それは事実だろうと思う。
正直なところ、あまり口に出せるような話はありません。
父がかなり良くない状態だという話を聞き、4月の始め、ちょうど東京では花見日和だった頃に実家に戻りました。入院していた父の、骨と皮ばかりになったような姿を見て、これは長くないだろうという感覚はありました。
そんな状況にも関わらず、父のあまりの言動に腹を据えかね、半ば口論のようなかたちになってしまいましたが、まさかそれが最後の会話になるとは思っていなかったというのが正直なところです。
その2日後に退院し、自宅療養となったのですが、それから2週間でこの世を去ることになるとは、家族・親族の誰も予想はしていませんでした。
最後の会話が口論めいた内容だった点については、間違ったことを言ったつもりは今でもまったくない訳ですが、それでも良かったのかどうか、考えてしまいますね。
と、あまりまとまっている感じはありませんが、これで一区切りということにしておきます。
次回以降は通常どおりの更新です。例によって不定期ではありますが。