マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

引っ越してきました

これまで長いことダイアリーのほうで書いていましたが、ダイアリーの新規登録の終了とかありますし、諸々の機能もこちらのほうに注力している感がありましたので、これを機に引っ越してみることにしました。

例によって仕事のほうが忙しいので更新頻度は低いですが、時折思いついたように何か更新するかと思いますので、今後はこちらのほうでよろしくお願いします。

狂気を創り出すコマ割り:『ヒストリエ』10巻におけるアレクサンドロスの描写について

先日、待ちに待った『ヒストリエ』の新刊が発売されました。



9巻が出たのが2015年の5月なので、1年10ヶ月ぶりになりますか。
この巻では、前半は9巻において戦端が開かれた、マケドニア軍とアテネ・テーベ連合軍によるギリシア地方覇権を決する戦争(カイロネイアの戦い)の顛末が、後半ではマケドニア王・フィリッポスや重臣アンティパトロスの目論見により政治・軍事の世界に否応なく巻き込まれていくエウメネスが描かれます。


既に何度か繰り返し読んでいる訳ですが、ほんとうに素晴らしいの一言に尽きますね。様々な思惑が複雑に絡み合いつつ、広がりを見せていくストーリー、引き込まれます。既に次の巻が待ち遠しいですね。


で、先程前半ではカイロネイアの戦いが描かれる旨を書きましたが、そこで描かれるのは、この戦いで初陣を飾ったアレクサンドロスの姿です。後の英雄・アレクサンドロス3世ですね。
そしてアレクサンドロスの描かれ方ですが、天才性を持つと同時に只ならぬ狂気を孕んだ存在として描写されます。父であるフィリッポスをして「ヤツは病気だ」*1と言わしめるほどの。


ほんの僅か先の未来が「見える」という神懸かり、それに基づく常識では思いも寄らない行動、まったくもって異質な価値観・言動。アテネの兵隊が「白っぽい小柄のバケモノ」*2と認識してしまう異様な存在として描かれるのですね。


で、その異様さ・狂気を、マンガの特性といいますか、構造を巧みに利用して表現している箇所がありまして、それが非常に面白いなと思ったので軽く触れてみます。
既読の方はもうお判りかもしれませんが、こちらになります。



岩明均ヒストリエ』10巻96ページ。)


敵陣の切れ目を突き抜いて単騎でアテネ軍の背後に回ったアレクサンドロスは、敵の隊列を掻き乱すこと「のみ」を目的として、背後をテーベ軍側へと駆け抜けながら敵兵の首を次々に「撫で斬り」していきます。そして手持ちの剣がすべて使い物にならなくなると見るや、馬から降りて先程切り捨てて首から下だけになった兵隊のもとへ悠然と歩いていき、淡々とその亡骸の装備を外し、剣を調達していくのですね。
呆気に取られ、或いは理解不能な恐怖で身動き一つできずにいるアテネ兵を前に、アレクサンドロスは自らの武人としての心得・持論を滔々と展開し始めるのです。それが上のコマになる訳です。


このコマ、ぱっと見では明らかに違和感があります。何かに憑かれたかのような、正気ではないような印象を受ける。
しかしながらこれは、マンガならではの表現であると共に、読む側が狂気を勝手に見出してしまっているとも言える訳ですね。


これは、2つのコマを別々に見ると判ります。




それぞれのコマを単体で見ると、特に違和感を感じるものではないことが判るかと思います。ほんらいこの2つのコマは別個の存在といいますか、僅かではありますが異なる時間のコマなのですね。
また、描かれてはいない箇所を推測するかたちにはなりますが、恐らくそれぞれのコマ、描かれていない目の向きは、描かれているそれとほぼ同じ向きになっている。顔の左側が描かれているコマの右目は左側に寄り気味の筈ですし、同様に右側が描かれているコマの左目は下向きになっている筈なのです。


しかしながら、この別個のコマが左右に並ぶことで、読む側がこの2つの顔を1つの顔として捉えてしまう訳です。結果として、左右の目が異なる方向を向いていて且つ口許が中途半端に歪んでいるかのような、非常に違和感の強い、狂気を孕んだかのような顔として認識してしまう。非常に巧い演出だなぁと感じました。


複数のコマを繋げることで異なる意味が生じる、っていうのは、映画でいうモンタージュ理論っぽいところがありますね。それでいて、連続している僅かな時間の、特定の箇所を切り取って同じ面に並べて描くというのはマンガならではかもしれないなと思いました。


と、まぁそんなことを考え連ねていた訳ですが、そういったことを特に気にせずとも『ヒストリエ』は最高の面白さなので、まだ読んでいない方は是非ご一読を。2ヶ月に1冊くらいのペースでも、次の新刊が出る頃には恐らく追いつく筈です。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:岩明均ヒストリエ』10巻135ページ。

*2:同書77ページ。

東京都指定不健全図書・諮問図書におけるBL作品の傾向と対策

※タイトルにはやや誇張があります。
表現規制とかに関心が高い方は、東京都指定不健全図書・諮問図書について目を配る機会があるのではないかと思います。


月に1回(毎月10日前後)に東京都青少年健全育成審議会というのが開催されまして、その会において何作品か(通例1〜3作品ほど)「不健全な図書類」というのが指定されます。
その対象となる図書類は全年齢作品として販売されていた訳なのですが、その指定を受けると一般書店では回収がかかって見当たらなくなったりするのですね。


そしてこの指定を受ける作品、男性向けのみではなくここ何年かはBL作品も受けることが多くなってきています。
それでちょっと訳あって、指定を受けたBL作品を調べる機会があったので、以下にまとめてみます。指定を受け始めたのは2010年からになりますので、それ以降のデータになります。これ以前の指定作品があり、且つご存知の方がいらっしゃれば、ご教示戴ければ幸いです。
因みに作者名がないもので、ふつうの鉤括弧「 」は雑誌、二重鉤括弧『 』はアンソロジーになります。



2010年


2011年

  • 『肉体派 VOL.19 極 !! エロ』(オークラ出版、2011年3月18日)
  • 宮下キツネ『殿下の家電』(海王社、2011年5月20日)
  • ジュネットMOOK DVD JUNE」(ジュネット、2011年6月1日)
  • 青山あると『Dr.チェリー』(海王社、2011年6月20日)
  • 宮下キツネ『限界バトル』(笠倉出版社、2011年8月5日)
  • 佳門サエコ『先輩の水着』(リブレ出版、2011年8月10日)
  • 藤井あや『男巫女』(ジュネット、2011年9月15日)
  • 藤井あや『桃色男子 檸檬編 〜檸檬と怜の章〜』(ジュネット、2011年11月15日)
  • 『肉体派ガチ! VOL.1 特集:戦うおっさん』(オークス、2011年12月23日)


2012年

  • 和泉アオ『ワンコ発情中』(日本文芸社、2012年1月10日)
  • 蝶野飛沫『愛玩奴隷 クライマーズハイ!』(ジュネット、2012年7月15日)
  • 東城麻美『被虐のキッス 東城麻美 伝説の作品集 上』(竹書房、2012年7月16日)
  • 東城麻美『享楽のペルソナ 東城麻美 伝説の作品集 下』(竹書房、2012年8月16日)
  • 宮下キツネ『もえるお兄様』(光彩書房、2012年11月7日)


2013年

  • 黄上恵理『心騒がせるキミと』(光彩書房、2013年2月7日)
  • いつきゆず『隷従の檻』(ジュネット、2013年5月15日)
  • しもがやぴくす&みらい戻『性玩具病棟』(ジュネット、2013年7月15日)
  • ふきなつき『愛玩サディスティック』(オークラ出版、2013年9月12日)
  • かゆまみむ『彼の食欲×性欲×所有欲』(リブレ出版、2013年11月10日)


2014年

  • はらだ『変愛』(リブレ出版、2014年1月23日)
  • 麻井キンタ『褐色のマーメイド』(大都社、2014年7月8日)
  • 蜂宮よう子『縛られやケンちゃん』(東京漫画社、2014年9月25日)
  • 「BOY'S ピアス 禁断」2014年11月号(ジュネット、2014年11月1日)


2015年

  • 藍川いたる『かべアナ』(ジュネット、2015年1月15日)
  • 座裏屋蘭丸『ペット契約』(リブレ出版、2015年3月10日)
  • 十はやみ『女装クロギャルママ男子』(ジュネット、2015年5月15日)
  • 灰崎めじろ『淫夢教師、飼育解禁。』(ジュネット、2015年6月15日)
  • 座裏屋蘭丸『眠り男と恋男』(リブレ出版、2015年7月10日)
  • 花田マコ『教師玩具』(ジュネット、2015年8月15日)
  • 『性癖BL』(メディアソフト、2015年9月15日)
  • 蔓沢つた子『好物はいちばんさいごに腹の中』(竹書房、2015年10月1日)
  • 有馬ちま子『ドS執事とヤンキー坊ちゃま』(コアマガジン、2015年10月24日)
  • 赤星ジェイク『はれもの水風船』(ふゅーじょんぷろだくと、2015年10月24日)


2016年


2017年

  • 池玲文『媚の凶刃 〜X side'〜』(リブレ出版、2017年1月10日)

以上、もしかすると幾つか漏れがあるかもしれませんが、調べた限りでは44作品になります。
そしてこう一覧を作成してみると、朧げに見えてくるものがあるといいますか。


まず、最初は特定の作品ではなく、雑誌やムック・アンソロジー類を指定していたことが判りますね。これに関しては、恐らくではありますがアタリをつけていたのではないかと考える訳です。複数の作品が収録されている雑誌やアンソロジーはそれに適しているといいますか、後々の作品ごとの指定に向けての試金石みたいな意味合いも含まれていたのではないか、と。
実際、2010年に『GUSHmaniaEX 特集 勃たない !?』が指定されている訳ですが、翌年に同じ出版社の作品が2つ指定を受けています。因みに作者の宮下キツネさんと青山あるとさん、共に『GUSHmaniaEX 特集 勃たない !?』にも参加しているのですね。


そして宮下キツネさんは(あくまで調べた限り、ではありますが)不健全図書の指定を受けた最初のBL作家さんになった訳でして、それ故なのか三度にわたり指定を受けています。3回指定を受けたのは唯一、宮下キツネさんのみ。
2回指定を受けた方というのは何名かいますね。藤井あやさん、東城麻美さん、座裏屋蘭丸さん。共通しているのは殆ど間をおかず続けざまに指定を受けているという点になります。一度注目?されると続けざまに...という傾向が窺える訳ですが、それぞれケースが異なるので個別にみていきます。


まずは藤井あやさんから。『男巫女』『桃色男子 檸檬編 〜檸檬と怜の章〜』の2作品で指定を受けている訳ですが、注目して戴きたいのは後者です。タイトルからある程度察することができますが、『桃色男子』は全4冊のシリーズで、「檸檬編」はその3冊目になります。1冊目は2007年、2冊目は2008年、4冊目は2012年3月に発売された訳ですが、これらは何れも指定を受けていないのですね。何故か3冊目だけ。
同様の傾向を窺える作品も別に存在しまして、佳門サエコさんの『先輩の水着』がそれにあたります。同様のコンセプトの『花嫁の水着』という作品が2016年1月に発行されていまして、こちらは特に指定は受けていません。
因みに『先輩の水着』に関しては修正を加えたうえで『水着彼氏。』と改題した作品が電子書籍版で読むことが可能です。
これらのことから考えられる可能性は、

  • 指定を受け、次回作以降は作者さん側で表現に配慮している
  • 指定した側はアトランダムで選別していて、ある程度期間を経たものが続編か或いは同様のコンセプトなのかは考慮外。または把握しきれていない

といったところでしょうか。


続けては東城麻美さんですが、2007年にお亡くなりになっていまして、その後に初収録も含めたセレクションというかたちですね。いろいろと毀誉褒貶ある作家さんでもあった訳ですが、立て続けに指定を受けてしまったというのは何か複雑な気分になります。


そして座裏屋蘭丸さんですが、元々電子配信されていて非常に人気が高く、紙媒体で満を辞して出版したら指定を受けてしまった、というかたちです。又聞きにはなりますが、男性向けでも同様のケースは見受けられる模様です。
2作品が立て続けに指定を受けてしまい、これが影響しているのかは定かではありませんが、その次に出した作品『VOID』は完全受注生産且つ最初からR-18指定での出版、電子書籍版もあるとの話ですがそちらは修正が強く入っているとのことです(こちらも又聞きですが)。因みに『VOID』は非常に評価が高く、「このBLがヤバい!2017年度版」でも上位にランクインしています。



あと注目しておきたいのは、出版社の傾向でしょうか。
上の一覧を見て戴ければ一目瞭然ですが、圧倒的ジュネット(或いはマガジン・マガジン)率です。
全44作品のうち、15作品がジュネット。だいたい1/3ですね。2010年以降毎年指定を受けている唯一の出版社でもあります。
ジュネット、これは私見になりますが、BL系の出版社では最も突き抜けている印象でして、全身全霊で頭の悪いことをしている感があります(賛辞です、念の為)。6年ほど前にはなりますが、ジュネットの雑誌について軽く触れたことがあるのでよろしければそちらもご参照ください。

あとは、「ポロリ落とし」で画像検索をして戴ければある程度は納得してもらえるかな、と。元ネタとなる作品は、ジュネットから出ています。


それとは逆に、これまで指定を受けていない出版社の傾向もあります。一般コミックス(非BL・非成年向)を主軸に据えている出版社のBLレーベルは、指定を受けない傾向が強いですね。
例を幾つか挙げると、新書館(Dear+コミックス)・芳文社(花音コミックス)・幻冬舎(ルチルコミックス・LYNXコミックス)はかなり規模が大きいBLレーベルを持っていますが、これまで指定を受けていません。それより若干規模は小さい印象がありますが、集英社(EYES COMICS Blink)や白泉社(花丸コミックス)もそうですね。意外かもしれませんが、集英社(正確には集英社グループのホーム社)もBLレーベルを持っているんですよ。


ただこれもあくまで「傾向が強い」というだけで、竹書房はこれまでに3作品が指定を受けていますし、昨年11月には、初めてKADOKAWAが指定を受けているんですね。CL-DXというレーベルで、『純情ロマンチカ』や『世界一初恋』、『八犬伝 -東方八犬異聞-』に『SUPER LOVERS』等、アニメ化された作品も少なからず存在するレーベルです。どこの出版社が指定を受けるかは、今後も注目しておいたほうが良いかもしれません。


といったところで、あまりまとまっていない気もしますが、長くなったのでこのあたりにて。

『映像研には手を出すな!』のフキダシ

例によって仕事でやることが多く、絶賛更新停滞中です。
とは言えそればかりでは息が詰まりますので、気分転換も兼ねて何か書いてみようかと。


既に2月になりましたが、先月話題になったマンガのひとつとして、『映像研に手を出すな!』を挙げることができるかと思います。



自分の考える「最強の世界」をアニメで作りたい監督気質・設定大好きな浅草みどり、お金大好きプロデューサー気質の金森さん、カリスマ読者モデルでアニメーター志望の水崎ツバメ、この3人が高校でアニメーション制作目的で「映像研」を設立することから始まる物語です。
瑞々しさのある女子高生活とアニメ制作、そして浅草さんの思い描く世界(設定)が作中の現実と混じり合い、SF・ファンタジー的想像力に溢れる日々が描き出されています。主要キャラクターの高揚感が伝わってくるような演出が実に心地よく、個人的にもお薦めできる作品です。キャラクター造型も秀逸で、とりわけ金森さんが素晴らしいですね。


で、この『映像研に手を出すな!』、単行本発売直後に(少なくとも自分のTLを眺めた上では) twitter とかでもかなり話題になっていたのですが、その要因のひとつとして、フキダシの独特な演出があります。実例を2つほど挙げてみます。



(大童澄瞳『映像研には手を出すな!』1巻18ページ。)


浅草さんと金森さんが、追っ手(使用人)から逃げていた水崎さんの手助けをし、その際にイチゴミルクを被ってしまった水崎さんをコインランドリーに案内している場面です。主役となる3人が接点を持った直後のシーンですね。複雑に入り組んだ裏道、橋の上に建てられた家屋、魔都・魔窟といった趣のある雑然とした魅力、恐らくこういう世界観こそが、作者の大童澄瞳さんにとっての「最強の世界」なのかな、と感じたりもします。
ちょっと脱線しましたが、ここで注目して欲しいのがフキダシでして、一目瞭然かと思いますがフキダシ内の台詞にパースが付いています。これはこの作品の大きな特徴のひとつで、随所にこのようなパースの付いた台詞・フキダシが存在します。
個人的な印象では、パースが付いたことによりフキダシそのものは平面的なものとして(読み手に)認知されて、それによって背景に奥行きを感じさせるような、そんな演出になっているなと感じました。



(同書78ページ。)

大雨の中を歩いている場面になりますが、浅草さんの「凄い風だなこれ!ヒャッホーウ!声が流れてくぞ!」という台詞を、風に流されている形状のフキダシで描くことで、声が流れる現象を再現している訳ですね。これも面白い演出です。



ただ、実は個人的に最も気になったフキダシの演出はこれらではないのですな。上に揚げた2つの例に比べると非常に地味ではあるのですが、非常に洗練された技術ではないかと感じたフキダシの使い方があります。実際に使われているのがこちらとなります。



(同書8ページ。)

1人でのアニメ制作に躊躇している浅草さんと、周囲を観察している金森さん。その2人が喋っている最中、金森さんが水崎さんを発見する場面です。


注目して戴きたいのは今挙げた画像の2コマ目、金森さんの台詞「おや。」のフキダシです。
フキダシの右上に、切れ込みみたいなのがあるのが判るかと思います。



普通のフキダシは、1コマ目の浅草さんの台詞のように、フキダシの一部が尖っていて、その先端が話者に向けられています。
それに対して切れ込みが入ったフキダシは、切れ込みが入っている箇所の正反対方向からの発言を意味します。上の画像を例に挙げると、右上に切れ込みがあるので、左下が尖っているフキダシと同じ意味合いということになりますね。つまりこの場合、設定画を描いている浅草さんの左後方から掛けられた声ということです。
それを踏まえて、直前のコマをご覧ください。



(同書7ページ。)


柵を背に設定画を描いている浅草さん視点から見て、左後方に金森さんの顔があることが判るかと思います(柵から乗り出しているので若干後方になっている)。



他の例も挙げてみましょう。



(同書71ページ。)

風車のアニメーション制作をしている場面の1コマ。浅草さんが金森さんに、風の表現について説明をしています。水崎さんも近くにいます。切れ込みのあるフキダシは2コマ目に使われていますね。「なるほど。」と「ほう。」の2つ。これは共に右方向、つまり浅草さん視点の左側方向からの発言であることを意味します。1コマ目の位置関係から、この台詞も金森さんの発したものだということが判ります。
仮に水崎さんの台詞だったとした場合、浅草さんとの位置関係では正面に近いので、「なるほど。」「ほう。」のフキダシの上部に切れ込みが入っていたと考えられます。


コマに描かれない人物の台詞(フキダシ)が誰の台詞なのかを判断する場合、主に文脈(台詞の内容)とか文体(口調)で判断する訳ですが、この「切れ込みが入ったフキダシ」は別ベクトルからの判断基準を提供してくれる訳です。
別に普通の(先端が尖った)フキダシでも良いではないかという意見はあるかもしれませんし、まぁ概ね当たってもいる訳ですが、コマ枠の都合上見栄えが良くなかったりとか、複数の(コマ枠に描かれない)キャラクターが存在した場合とかを考えると、フキダシを削ることで位置関係を示すこの手法は非常に洗練されているなぁと考えたりする次第。


...まぁ実を言うと、この法則がすべてのフキダシにおいて適用されているかというとそうでもなかったりはするのですが*1、概ね上記のような使われ方をしています。これは使い方次第では、複数人がいろいろ台詞を発するような場面での構図・演出でかなり選択肢が広がるかもしれないなぁとか、素人考えですが感じたりもします。


フキダシにも注目しつつ、夏発売予定の2巻に期待ですね。
といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:95ページ7コマ目とか。

謹賀新年

新年明けましておめでとうございます。


昨年は、『ハイスコアガール』の新旧比較が過去最高のブックマーク&1日での最高アクセス数になったり、アクセス総数がようやく200万を超えたりもしたのですが、8月以降は主に仕事関連のほうでいろいろと立て込みまして、心身ともにけっこうしんどい状況が続いたために5ヶ月以上サイト放置のまま年を越してしまうことになりました。


今年も忙しいことは変わらないでしょうし、相変わらず更新頻度は低いかもしれませんが、昨年より上向きにしていきたいとは思うところです。
それ以外としては、部屋がいい加減危険域(本の量的に)なので、部屋の片付けと電子書籍への移行を本格的に進めて行かねばならんかなという感じです。むしろ更新よりもそちらの優先度が高いかも。


相変わらず更新頻度が低いままという状況ではありますが、今年も宜しくお願い致します。

2016年お気に入りマンガセレクション

昨年は8月以降はまったく更新ができなかった訳ですが、まぁそれなりにはマンガは読み続けていましたので、2016年に読んだ作品で印象に残ったものを幾つか挙げてみようかと思います。


昨年末に参加したオフ会で5作品ほど挙げてみたのですが、それに少し追加しつつちょっとコメントを加えてみる感じですね。その際の様子は、以下のリンク先をご参照ください。


では早速開始。



ノー・ガンズ・ライフ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

ノー・ガンズ・ライフ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

大戦を経て、身体の一部を機械化した「拡張者(エクステンド)」と呼ばれる人間とそうではない生身の人間が共存するようになった世界を舞台とした作品です。
そんな世界で、拡張者にまつわるトラブル処理を生業とする「処理屋」をやっている乾十三が主役なのですが、彼の造形があまりにも秀逸といいますか、頭部が拳銃なのですね。
そして彼は「拡張者を遠隔操作できる技術」を持つ少年を保護したことから様々な事件・陰謀に巻き込まれていくことになる訳ですが、この作品、とにかくアクションから台詞回しから非常にスタイリッシュで素晴らしいです。


闇夜に遊ぶな子供たち 完全版

闇夜に遊ぶな子供たち 完全版

『死人の声をきくがよい』で知られるうぐいす祥子さんの、初期作品になります。昨年、単行本未収録だった回も含む完全版として復刊しました。
『死人の声をきくがよい』の原型とでもいいますか、恐怖・怪異が日常を侵食していく感じや、難を切り抜けるも根本的な解決は置き去られたままで絶妙な後味の悪さを残す読後感、まだ恐怖はそこに在り続けているという感覚、これぞホラー!という作品です。


これは昨年自分が『ガールズ&パンツァー』に大いにハマったことも要因としてありますね。戦車道がない高校に通う少女が、大洗学園の優勝に触発されて非公式の戦車戦「タンカスロン」を始めて周囲に波紋というか影響を及ぼしていく、という内容です。
いわゆるスピンオフ作品になる訳ですが、この作品の興味深いところは、(他のスピンオフもそうかもしれないのですが)二次創作で描かれるような独自設定・解釈を作品に取り込んで作品に昇華させているように感じるところですね。逸見エリカとかとりわけそういうふうに見える(と個人的には感じる)。
絵柄・台詞回しともに非常にクセがある作品なので好き嫌いは分かれるかもしれませんが、ハマる人はハマると思います。


上記リンク先でタイトル間違っていました。少々こっ恥ずかしいです。
戦後間もない時期を舞台にした、家族を皆殺しにされた少女の復讐譚です。掲載媒体「やわらかスピリッツ」との齟齬が光ります。
確か単行本発売前後に「劇画の復権はここから始まる」という惹句を目にした記憶があります。個人的に劇画を劇画たらしめるものに「戦争(この場合太平洋戦争)を引き摺り続けている人物が中心となっていて、それが作品全体に陰影を与えている」というものがありまして(必須ということではないです。『ゴルゴ13』とか白土三平作品とか例外を挙げるのは容易です)、そういう意味では実に劇画だな、と思う次第。
闇市や焼け跡の混沌とした雰囲気、飛び散る血飛沫と内臓、人間離れした生命力と理性の崩壊をもたらすクスリ等、まさしくエログロナンセンスカストリ雑誌的な描写に溢れています。


GUNSLINGER GIRL』でも知られる、相田裕さんの新作。元々は同人誌で発表していた『バーサスアンダースロー』という作品のリメイク版になります。
高校での生徒会活動を描く作品なのですが、この生徒会に所属する複数名(もしかするとほぼ全員かも)が何らかのかたちで挫折を経験していて、「自分の夢を掴めなかった人が、どう自分と折り合いを付けて別の生き方を見出していくのか」が描かれています。自分も年をとったのか、こういう題材が非常に心に沁みてくる訳ですな。


塹壕の戦争: 1914-1918

塹壕の戦争: 1914-1918

ここからはリンク先からは漏れた枠です。


BD(バンドデシネ)作品です。作者のタルディはBDの巨匠のひとりに数えられる方とのことですが、作品の翻訳は殆どなく、代表作にも数えられるこの作品はようやく昨年翻訳が出ました。
第一次世界大戦の最前線が、複数の一兵卒の視点から描かれていく作品なのですが、この作品の特徴として挙げられるのは、マンガ的な演出を可能な限り排除したマンガというところ。コマ割りは(一部例外を除き)単調な3段コマのみ。『Dreams』よりも単調。戦争を題材としながらも、オノマトペ(擬音)や集中線といったものも描かれない。更には、フキダシすら非常に少ない。四角い枠で囲まれたモノローグが殆どを占めています。
内容としては実にショッキングでありながらも非常に静的な構成になっていまして、読み進める際には一つ一つのコマとじっくりと向き合っていくかたちになります。淡々と積み重ねるように描かれる、死と隣りあいの塹壕での日常。読むとかなり体力を削られるような感覚がありますが、普段読むようなマンガとは違った読書体験が得られると思います。


卯月妙子さんの新刊です。
タイトルが示すとおり、前作『人間仮免中』の続き、その後の日々が描かれています。
前作については、4年半ほど前に長めの感想を書いているので、よろしければそちらも併せて。これまでに書いたものの中でも、かなり時間を掛けたものでもあります。


詳細は割愛しますが(余裕があれば別の機会に)、業火に呑まれ続けながら生きてきたような卯月妙子さんが、その彷徨の果てに遂に辿り着いた地平とでも言いますか。そこに辿り着けたことが、只々嬉しい。そんな作品です。



他にもいろいろありますが、このあたりで一区切り。
今年も面白いマンガを出会えるといいな、と考えつつ、本日はこのあたりにて。

『ハイスコアガール』新旧比較

先日、『ハイスコアガール』の6巻が発売されました。



SNKプレイモアとの諸々のトラブルならびに和解を経ての、実に2年7ヶ月ぶりの新刊となります。万感の思いといった趣がありました。
それに合わせて、絶版状態になっていた既刊1〜5巻に関しても、『ハイスコアガール CONTINUE』と改題されて同時発売。各巻に新規描き下ろしエピソードが収録されている他、加筆修正も加えられているとのこと。


そして気になってしまうのが、どのような加筆修正が加えられているのかという点です。そんな訳で、些か下世話なのかもしれませんが調べてみることにしました。


既刊箇所ではありますが内容にも少なからず触れますので、以下の文章は収納しておきます。読み進める際にはご注意ください。

続きを読む