「マンガの書体」の歴史的経緯に関する一考察
近頃は忙しい日々が続いていて、まともな更新ができていない状態です。
そんな中、幸いにも今月13日に開催されたコミティアには参加することができました。そこで買った同人誌のうちの1冊がこちらです。
『書体の研究 vol.7』(サークル:ゆず屋)
残念ながら新刊の vol.8 は自分が出向いた際には完売していまして、この vol.7 は昨年夏コミで販売開始されたものとなります。この『書体の研究』シリーズは、アキバblog さんとかでも度々紹介されているのでご存知の方も多いかと思いますが、オタク的物件(マンガとかライトノベルとか)で扱われるフォントに焦点を当てつつ、実に多種多様な発展を遂げている書体の紹介・解説を行っている同人誌です。
書籍版も出ていますね。
- 作者: 山王丸榊
- 出版社/メーカー: 晋遊舎
- 発売日: 2009/11/02
- メディア: 大型本
- 購入: 9人 クリック: 198回
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そして、今回自分が購入した vol.7 で組まれている特集が、「マンガの書体。文字の演技力。」というもの。
この特集での主張を一言で説明しようとすれば、「マンガで用いられる様々な書体そのものが持つイメージ・効果は『文字の演技力』と言い換えられる」といったところでしょうか。幾つもの実例付きで幾つものフォントを紹介し、その効果について詳細な言及を行っています。
そして、マンガの書体において基本となるのがアンチゴチと呼ばれるものです。
アンチック体(明朝体を太くしたような書体)とゴシック体を併用した書体です。主に漢字がゴシック体で、ひらがな・カタカナはアンチック体が用いられます。
マンガを読む際にはあまり強く意識はしないかもしれませんが、殆どの作品はアンチゴチで、何らかの効果を伴わせる際には別の書体を用いる、というのが基本です。
ただ、このアンチゴチという書体がいつ頃定着したのかというと、(少なくとも自分には)正確な年代はよく判らないのです。恐らく1960年前後であろうとは思うのですが。
貸本の復刻とかを読むと、書体が統一されておらず、様々なバリエーションが存在するのが判ります。
今回は、僅かながらの蔵書(復刻)を繙きつつ、そのバリエーションを眺めてみようかと思います。
物語の冒頭、宿を求めてコオロギが街を徘徊している場面です。
この作品では、カタカナはゴシック体で統一されています。
『ピノキオ』の発表は、1952年となります。
悪魔くんの正体を知ろうとした青年・佐藤が秘術によりヤモリビトへと変貌させられてしまい、その事実を前に悲嘆に暮れている場面となります。
漢字も含め、明朝体で統一されているのが判るかと思います。また、画像を撮るのを忘れてしまいましたが、ゴシック体で統一されているコマも存在します。強調したい台詞に関してはゴシックで統一、という傾向が見受けられます。
余談ながら、当時の印刷技術や使われていた紙質の問題もあるのでしょうか、貸本時代には文字そのものにカスレやブレのようなものが存在する。貸本を読む際に度々感じる不気味さは、内容のみならず、この文字が淡古印(ホラーマンガとかでよく使われるフォント)に近い効果をある程度醸し出しているのかもしれない、とか考えたりもしています。
因みに『悪魔くん』が最初に発表されたのは1964年です。
(石森章太郎『龍神沼の少女』6ページ目。石ノ森章太郎『龍神沼』*361ページ。)
『マンガ家入門』で取り上げられたことでも有名な、代表作のひとつ『龍神沼』の原型となった作品です。龍神沼の伝説を利用して金儲けを企む悪人を、龍神沼の主が罰する場面です。
明朝体のみが用いられている台詞と、アンチゴチが用いられている台詞が混在している例となります。
そしてこちらが『龍神沼』のほぼ同じ場面。
こちらだと全ての台詞がアンチゴチになっています。
因みに『龍神沼の少女』が発表されたのは1957年、光文社から出ていた「少女」という雑誌、『龍神沼』は1961年、講談社の「少女クラブ」で発表されています。
これらの事例から推測するに、貸本ではアンチゴチは採用されなかった可能性があります。また、貸本ではない雑誌においても、1957年の時点では統一はされていない模様。或いは出版社が関連しているのかもしれません。大手出版社の雑誌だとアンチゴチで統一とか。
より詳細に調べれば、更に正確な年代の特定とか要因とかが可能かもしれませんね。
とりあえず今日のところは、夜も遅くなったのでこのあたりにて。