日本マンガ学会シンポジウム「マンガと同人誌」レポ(第2部)
第1部のレポ記事の続きとなります。
休憩時間を挟んで第2部。
会場出入口に、マンガ学会関連書籍や小学館クリエイティブから出ている復刻マンガを販売しているスペースがありました。
そこに以前レポを書いた、明治大学藤本ゼミ卒論発表の論文集(同人誌)を見掛けたのですが、食事から戻ってきたら既に完売していました。無念。
夏コミには受かったようなので、そこで入手したいところです。
第2部は「二次創作の可能性と課題」。
司会は明治大学国際日本学部准教授・藤本由香里さん。先日『魔法先生ネギま!』が完結し、Jコミの代表としても活躍されているマンガ家の赤松健先生・角川書店代表取締役社長の井上伸一郎氏・著作権に関わる著書も上梓されている弁護士の福井健策氏・同人誌生活文化総合研究所の管理人でもあられる研究家の三崎尚人さんの4名がパネリストです。
【第2部:「二次創作の可能性と課題」】
まずは藤本准教授によるイントロダクション的な話から。
- 現在のマンガ業界では、同人出身の作家が増加している。
- マンガ研究においても、マンガのみではなく同人を含む必要性が出てきている。
- しかし同人というジャンルに踏み込んだ場合、著作権が問題として発生する。
- 二次創作の可能性と、それが孕んでいる問題点について検討していきたい。
そして議論の前段階的な話として、「パロディ同人誌とコンテンツホルダーとの不思議な関係」と題された、三崎尚人さんによるパロディの現状解説。
- コミックマーケット81(2011年冬)を例としたパロディの現状について。
- 分類すると、パロディ60%・完全非パロディ12%・パロディ混在21%・ナマモノ7%。
- 「完全非パロディ」は創作・文芸・歴史・或いはアクセサリーといったジャンル。
- 「パロディ混在」は、『ひぐらしのなく頃に』のような同人ソフトとかを含む。(東方もここに分類?)
- 「ナマモノ」は、俳優・お笑い芸人等を題材とした二次創作。
- サークル・参加者数の変遷。
- 1980年代後半から伸びを見せている。
- その原因として、『キャプテン翼』が与えた影響が大きい。
- 「同人誌はクリエイターのゆりかご」。
- ツールとしてのパロディ、商業作家でもパロディを行うケース。
- 商業誌ではできないことを、同人誌でパロディとして描く例。ある作家さんは、自作品(商業誌)のキャラクターを、性別を入れ替えて同人誌で発表したりも。
- サンライズは本当に怖いのか?他
- サンライズのガイドライン(「インターネット上でのサンライズ作品の画像について」「自分で制作した小説やイラストなどについて」)は1998年に発表されたもの。
- 何年かごとにネット上で持ち上がっては騒がれたりする。
- 「サイバーフォーミュラ事件」が有名。*1
- 同人誌的パロディが許諾を得た例:えれっと『にょろーんちゅるやさん』
- 同人ジャンルでの人気作家が公式コミカライズを担当した例:犬威赤彦『こみっくパーティー』、秋★枝『東方儚月抄』etc
- 企業が同人誌を出すケース:木尾士目『げんしけん』限定版、甘詰留太『ナナとカオル Black Label』限定版、コミケ企業ブースでの販売etc
にょろーん ちゅるやさん (角川コミックス・エース 246-1)
- 作者: えれっと,谷川流
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/09/26
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- 作者: 犬威赤彦
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東方儚月抄 ?Silent Sinner in Blue. 上巻 (IDコミックス REXコミックス)
- 作者: 秋★枝,ZUN
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- 作者: 木尾士目
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ナナとカオル Black Label 2 トロピカル同人誌つき初回限定版 (ジェッツコミックス)
- 作者: 甘詰留太
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- パロディ同人誌に対しての発言。
- 文化庁のコメント:「サイゾー」2006年6月号に収録。
- 出版社側のコメントその1:「ティアズマガジン」Vol.84に収録された、ジャンプスクエア編集長(当時)・茨木政彦氏のコメント。
- 出版社側のコメントその2:「日経ビジネス」2007年10月22日号に収録された、角川グループホールディングス会長・角川歴彦氏のコメント。
- 「ドラえもん最終回事件」に関して。他
- この事件が話題になったとき、「同人誌」という言葉は殆ど報道では出なかった。
- 使われた言葉は、「ニセモノ」「海賊版」といった語彙。
- 原作者側からの(同人誌に対しての?)配慮も見えるケース。
- 現在の同人誌に対する「暗黙の了解」は、皆にとってのベスト・ワーストではなく、ベターな位置にある。
ここで三崎尚人さんの発表は一区切り。
続けて福井健策氏の発表に。専門とされている著作権関連の話が中心。
- パロディは法的にどう解釈されるのか?
- 「著作物」は、①小説等(言語の著作物)・②音楽・③舞踊または無言劇・④美術・⑤建築・⑥図形・⑦映画・⑧写真・⑨プログラムに分類される。マンガは①と④の複合、動画やアニメーションは⑦に含まれる。
- 著作権は、「何についての禁止権か」を考えると判りやすい。権利の内容として(マンガや二次創作に)大きく関わってくるのは、複製権・公衆送信権・翻訳権・翻案権。
- 翻案権では模倣が禁止されている。
- 二次的著作物の利用権について。
- n次著作物(例:原作小説→マンガ→動画(アニメ・実写)→更なるリミックス)。
- 例として、『バガボンド』をアニメ化しようとした場合、作者の井上雄彦氏のみではなく、原案である『宮本武蔵』の作者・吉川英治氏(の遺族)の了承が必要になる。更には遺族の場合、権利を持つ全員の許可が必要。
- 現行法における二次創作の位置について。
- 現行法では、二次創作は著作権・著作者人格権の侵害に該当する。
- 絵柄・基本設定・台詞の三点、特に絵柄において、現在同人誌を裁判所に持込まれた場合、翻案権・著作者人格権の基準でアウト。
- これに対しては「暗黙の了解」で対処しているという現状。
- 日本と欧米での「パロディ」の違い。他
- 日本のパロディは諷刺よりも「愛の表明」の側面が強い。
- 俵屋宗達の『風神雷神図』→尾形光琳の『風神雷神図』→山本太郎(画家)の『風神ライディーン図』。
- 欧米ではパロディは諷刺・批評が入る。
- 「日本にはパロディを規定する法案がない」。
- パロディに関する日本の判例:マッド・アマノの「パロディ・モンタージュ事件判決」。
- 同人が裁判にまで行った例は殆どない。何らかの共存の仕組があるのではないか。
と、ここで井上社長にバトンタッチ。
藤本准教授が質問を交えつつ、話は進みます。
- 井上社長の返答。
- サンライズは怖いですよ(場内笑)。大和田先生は連載のかたわらご自身のサイトで『ガンダム』の4コマを発表していたが、非常に面白いと編集部で話題になり、「ガンダムエース」を創刊する際に掲載しよう、という話になった。
- その際にサンライズとの交渉が必要になる訳だが、主に大和田先生の『ガンダム』に対する作品愛、他にも幾つかの要素が巧く絡まった上で掲載、という流れになった。
機動戦士ガンダムさん さいしょの巻 (カドカワコミックスAエース)
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- 出版社/メーカー: 角川書店
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- 藤本准教授の質問:角川書店が同人文化を肯定するようになった経緯は?
- 井上社長の返答。
- 角川書店がマンガに参入したのは遅い。1985年の「月刊ASUKA」が最初。
- 同時期に創刊した「NEWTYPE」でもマンガをやろう、という話になった。『ファイブスター物語』では永野護氏を起用。
- 永野氏は当時、川崎市民プラザで開催していたコミケで同人も描いていた。
- その繋がりで、コミケで声を掛けて「NEWTYPE」で連載開始、というケースが増えていった。
- 高河ゆん『B型同盟』、CLAMP『不思議の国の美幸ちゃん』、岡崎武士『精霊使い エレメンタラー』等。
- 「少年エース」創刊時も、コミケに参加していた同人作家から起用するケースがあった。
- 同人誌を否定すると、自分達(角川書店)のアイデンティティも崩れてしまう。
ファイブスター物語 リブート (1) LACHESIS (ニュータイプ100%コミックス)
- 作者: 永野 護
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- 作者: 高河ゆん
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- 作者: CLAMP
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- 作者: 岡崎武士
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- 角川グループがネット上から発掘をした例。
- 茶麻『あいうら』:ニコニコ静画で配信されていた作品→「なのエース」でも連載を開始。
- おんたま『はちゅねミクの日常 ろいぱら!』:ニコニコ動画で配信されていた作品→「コンプエース」で連載。元々がボーカロイド「初音ミク」のパロディであるため、n次創作の例でもある。
- じん(自然の敵P)『カゲロウデイズ』:ニコニコ動画と角川コンテンツゲートが組んだ例。作者は同人音楽の人。「コミックジーン」でコミカライズも。非常に売れ行きも良く、編集部で「初版をもっと刷っておけばよかった」と言っている(場内笑)。
- ブログと組んだ例としては、よしたに『ぼく、オタリーマン。』や井上純一『中国嫁日記』等。
- 華尾ス太郎『BLOODY MAIDEN』:Pixiv での作品から、「ドラゴンエイジ」の連載に起用した例(だった筈。)
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そして再び、著作権の話に(福井氏の発言)。
途中で赤松先生が「二次創作に関しては、こういう議論自体がなじまないのでは?」「描く側・読む側も『放っといてくれ』という意見に対してはどうお考えですか?」等、シンポジウムの根幹に関わるような質問で会場の笑いを取る場面もあり。
- アメリカでのパロディ規定について。
- アメリカでは、フェアユース規定で一部合法となる。
- ①使用の目的・性質(商業利用か否かetc)、②原作の性質、③使用された量・実質性、④原作への市場の影響から総合的に判断。
- 最も重要なのが④。オリジナルの収益確保が重要。オリジナルの売上に影響を及ぼさないような内容であれば、合法になりやすい。
- フェアユースに関しては、「プリティ・ウーマン事件最高裁判決」(1994年)が大きな位置付け。
- フランス・スペインのパロディ許容規定。
- 主観的条件:ユーモア性の重視。「原作との知的な距離」。距離が近いと不利になる。
- 客観的条件:原作に市場で与える悪影響。「横に並べて原作の売上に影響するか」。
- 二次創作はこれからどうなるか。
- ①フェアユースの方向・二次創作を自由にする・法改正へと向かうか、②グレーな領域のままでいくのか、③ピアプロ・キャラクター・ライセンスのような許可・共同作業の仕組が普及するか、の3つの選択肢があると思う。
- 他のパブリックライセンスとしては、クリエイティブ・コモンズやニコニコモンズ等。
- ピアプロ・キャラクター・ライセンスについては、同人誌でも事例がある。
- 方向性としては③ではないか。しかし同人誌でこの制度が(金銭の動きを含め)受け入れられるのか、という問題はある。
- TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について。
- TPPで予想される知財の交渉項目(米国の要望)としては、①著作権保護季刊の大幅延長、②広範なDRM回避規制、③法定賠償金の導入、④非親告罪化、⑤ダウンロード刑罰化・全著作物への拡大、etc。
- これらが入ってくると、「暗黙の領域」は確実に狭まる。
③と④のあたりで赤松先生が反応。(目を輝かせつつ)「法定賠償金はどのくらいになるんですか!?」「例えばどこかのサークルに『俺の絵柄を使っている』と通報されたくなければ俺と付き合え、とか・・・」と、意図的に下衆な発言を連発して場内の笑いを誘っていました。因みに2つ目の発言に関しては、福井氏から「それは犯罪ですよ」と一刀両断。
その後、赤松先生によるプレゼンテーション。
赤松先生はあくまでグレーのままを希望で、しかしTPPが入ってきてしまった場合の最終手段、という意味合いとのこと。
- もしTPPが入ってきてしまった場合の、二次創作におけるビジネスモデル。
- コミケにサークル参加する際、参加費に加えて+5000円を支払う。それで二次創作を公認というかたちにする。
- 公認という保証・安心を得られるのであれば、5000円なら払う人も多いのではないか。
- 原作者側と出版社が契約を結ぶ際の条項に、二次創作について公認するというものを付け加える。編集者側が頑張って、原作者には契約の際に納得してもらう。
- コミケを例にすると、3日間で参加する約50000サークルのうち、仮に6割弱の27000サークル(だったか?)が追加料金を支払ったとする。その場合27000×5000で1億3500万。*4
- コミケだけではなく、それ以外の即売会でも適用する。いきなりコミケで行うのは危険なので、小規模のイベントで実験的に始めるのが良いと思う。
- 収益は原作者と企業で折半。
- 福井氏等からの、このビジネスモデルに対する指摘。
- 追加料金の金額が足りない気がする。利益の分配には大きな手間が掛かる。
- 例えばアニメの二次創作の場合だと、複数の箇所に分配することになる。その場合、原作者サイドが納得する金額になるか。
- マンガのキャラクターとかに混ざって、例えばハリウッド映画の人物・キャラクターの二次創作があった場合はどうするのか。
- 出版社と原作者で折半したら、「○○のキャラクターも使われているのだが・・・」となった場合は。
等々、盛り上がりを見せつつも時間切れ。
各パネリストの方々が締めの言葉を言って、閉会という次第。
非常に面白いシンポジウムでした。
といったところで、今回はこのあたりにて。