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マンガLOG収蔵庫・別館

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さりげなく復刻されていた幻の作品『復讐つんではくずし』

マンガ

表現規制とか有害図書・不健全図書の話は、一定のサイクルで大きな話題になるという印象があります。
つい最近も、このようなニュースがありました。


1999年には児童ポルノ法の施行の影響で、一時的に紀伊国屋書店の店頭から『ベルセルク』や『バガボンド』が消えるという事態もありましたし、その更に10年くらい前には、一般誌で掲載されている作品の単行本に成年向マークが付く、という妙な現象もありました。1980年代後半頃の「ヤングマガジン」掲載作品とかで幾つか見掛けるというイメージですね。


この表現規制というもの、当然と言うか何と言いますか、長い歴史を持っています。近年だと性描写で規制対象になるケースが多い訳ですが、嘗ては暴力描写が問題視される場合も多く存在した模様。
とりわけ1950〜60年代あたりには、悪書追放の名のもとに(現在では名作されるものも含めた)多くの作品が槍玉に挙げられてきています。白土三平さんの『忍者武芸帳』とかもそうですね。
その他には、描写に色々と社会的問題があるために、出版ができないというケースもあります。『ブラック・ジャック』の幾つかのエピソードや藤子不二雄先生の『狂人軍』、今年始めにようやく復刻された『私立極道高校』とかがその例として挙げられます。



これらの作品でとりわけ有名なのが、平田弘史さんの劇画『血だるま剣法』ならびに『復讐つんではくずし』と言えましょう。
そしてこの2作品をまとめた1冊が、今年の8月下旬にさりげなく復刻されています。


血だるま剣法・復讐つんではくずし

血だるま剣法・復讐つんではくずし


とりわけ、『復讐つんではくずし』が比較的廉価で復刻されたことは非常に意義のあることだと考える次第です。
実のところ、これが初の復刻という訳ではありません。今回の復刻版を出しているラピュータから1998年に『平田弘史劇画創世期傑作選』5冊セットの1冊として、『復讐つんではくずし』は出版されています。


しかしながらこの傑作選、リンク先を見ればお判りのように無闇に高い。
5冊セット25000円です。
貧乏人の自分には、ちょっと手を出すのが難しい作品でした。


また、改作版の復刻は既に行われています。
『大地獄城』という作品です。


大地獄城・血だるま力士

大地獄城・血だるま力士


実際に読み比べれば判りますが、内容はほぼ同じです。そして『大地獄城』も名作と呼ぶに値する作品です。内容だけ知れば満足という向きであれば、こちらだけでも差し支えはないかもしれません。
しかしやはり、オリジナルを読んでみたいと思うのはマンガ好きの性とでも言いましょうか。『復讐つんではくずし』と『大地獄城』の執筆期間には8年ほどの間があり、*1その期間には発表媒体に大きな変化が起こっている。貸本での発表から雑誌連載に変わっています。それによる構成、引きの違いとかを比べるのもなかなかに面白いですし、何より筆致が大きく変わっています。



『復讐つんではくずし』の概略を簡単に書きますと、一族郎党皆殺しにされた唯一の生き残り・硲太平の壮絶までの復讐劇となります。
冒頭の戦の緊迫感、ならびに中盤の陰惨且つ凄絶な復讐は、必読と言えましょう。とりわけタイトルからも暗示される、ひたすらに無意味な行為を延々と続けさせられる復讐は、それを実際に受けることを想像すると背筋が寒くなりますね。実際に仕事をしていて、これほど凄惨ではないにしろ似た経験をしたことがある方もいるかもしれませんね。
この暴力描写故に、発表当時は問題視され、長い期間封印される結果となった訳ですが、現在であれば問題にされることはないのでは、とも思う次第。
規制の基準というのは厳密に決められているのではなく、その当時の社会情勢とか風潮も反映した流動的なものなのだ、というのを改めて感じます。


そして先程触れた筆致(ペンタッチ)ですが、貸本時代(つまり『復讐つんではくずし』の頃)は非常に独特の描線で、どうにも名状しがたい迫力が備わっています。改作版も名作であるには違いないのですが、やはりオリジナルの迫力には及ばない感があります。これは『血だるま剣法』にも言えることですね。*2



巻末に添えられた呉智英氏による詳細な解説(最初の『血だるま剣法』復刻版の解説に一部修正を加えたもの)も、当時の状況を知る上で必読の文章です。
表現規制の歴史を知る上でも重要な作品であるのみならず、純粋にマンガとしても傑作と言える作品であると思います。


といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:『復讐つんではくずし』が1961年、『大地獄城』が1969年。

*2:設定を変更した『おのれらに告ぐ』は、やはり『血だるま剣法』と比較すると迫力では及ばない。しかしながら構成は改作版のほうが優れていたりもするので、一長一短ではあるかもしれません。