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『うさぎドロップ』:類い稀なるリアリティ

久し振りにマンガの感想を書いてみます。
今日書くのは宇仁田ゆみさんの『うさぎドロップ』。

うさぎドロップ (1) (FC (380))

うさぎドロップ (1) (FC (380))

昨年末に出た『このマンガがすごい!2008』では「オンナ編」第5位に入っていますね。
それを読むまではまったくノーチェックでした。自分の不勉強を恥じ入るばかりですよ。
それで早速集めて読んでみた訳ですが、これがまた実にいい話なんですよね。
人の暖かさや機微が丁寧に描かれています。それと同時に社会(或いは世間)の苦さにも触れている。そしてちょっとした考え方や振る舞いが、実にリアルに描かれていると思います。

では、以下に話の概略と長めの感想を。


この話は葬式から始まります。
主人公のダイキチの祖父(享年79)の葬儀です。
そしてそこで、祖父に隠し子がいたことが知らされます。その女の子がもう一人の主人公・りん(6歳)です。
つまり血縁上は、りんはダイキチ(30歳)の叔母に当たります。

葬式が終わって程なく、親戚一同りんの処遇を検討し始めます。
誰も身元を引き受けようとしない。身の回りで精一杯だったり、あまり喋ろうとしないりんを疎んじたり。施設に預けようという意見さえ出てくる始末。
その様子に腹を据えかねたダイキチは、りんに自分の家に来るように言います。
そして奇妙な血縁にある2人の共同生活が始まります。


この2人がお互いを理解し合って、少しずつ成長していく。
その様子が凄く丁寧に、且つ暖かな視線で描かれているんですよね。
ちょっとした台詞の一言一言が、じわりと来るんですよ。


あとこの作品、尋常ではないリアリティがあると思っています。
うまく説明できないので作中から幾つか例を挙げてみます。

僕がこれを読むときって、どうしてもダイキチ目線になります。
独り身ですし、年齢も殆ど同じです。違いと言えば仕事の立場と収入ですね。orz
それはさておいて、ダイキチの言動や立ち居振る舞いとかが見事に自分と重なるんですよ。
年を取って涙もろくなっているくだりとか、買物袋を上手くめくれない(手の脂分が少なくなっていてすべってしまう)とか。
母子手帳に予防接種の記録があることも知らないし、保険のことも殆ど無知。
この、知らない部分まで実に的確に描かれている。

作者さんの実体験なのではないかと疑ってしまうくらい、ダイキチには実感が伴っているんですよ。
たぶんダイキチの母親とかりんの同級生のコウキ、コウキの母親、りんの実の母親とかも、同じような立場の人が見ると同じように感じるのではないか。
宇仁田ゆみさんは非常に優れた観察力を持っている方なのだろうと思います。


ダイキチとコウキの母親との関係は今後進展があるのか。
りんと実の母親との問題はどうなるのか。
まだ描かれていないことも多くあります。続きが楽しみですね。
今後も彼らの様子を見続けていこうと思います。当然ダイキチの視点で。