『名探偵マーニー』カバー折り返し元ネタ解説
木々津克久さんの『名探偵マーニー』、面白いですよね。
現在連載中の作品で、お気に入りのひとつです。
- 作者: 木々津克久
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ぼさぼさ頭がトレードマークの女子高生・マーニー*1の家は、探偵事務所「ロイド・インベスティゲーション」。マーニーは父親の助手をしつつ、学校の知り合いや友人からの調査依頼を日当5000円+経費で請け負い、解決へと導いていきます。
そこへ至るまでに描かれる登場キャラクターのエピソードは、絶妙にほろ苦く、複雑な余韻を残します。基本的には1話完結型でありながら、何れも凝縮された、密度の濃い作品ですね。物語の途中からは、宿敵となる愉快犯「メカニック」も登場し、ストーリーに広がりをもたらしているように感じます。
『名探偵マーニー』の前に「チャンピオン」で連載していた『ヘレンesp』のヒロイン、ヘレンが時折この作品に顔を出していて、同じ世界観でキャラクターがクロスオーバーしているのも面白いですね。そういえば、『アーサー・ピューティーは夜の魔女』ってどうなったんでしょうか?確かあの作品にもヘレンが出ていた気がします。(´ω`)
アーサー・ピューティーは夜の魔女 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
- 作者: 木々津克久
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さて今回は、その『名探偵マーニー』の、単行本カバー折り返しの話です。
単行本を開いた最初のところ、作者コメントとかが掲載されている箇所ですね。『名探偵マーニー』でも例に漏れず、コメントが寄せられている訳ですが、それと一緒にイラストカットが掲載されています。
このイラストカット、一般的なのは作者さんの似顔絵だったり作品のキャラクターだったり、或いは著者近影だったりするのですが、この作品ではちょっと趣が異なります。何らかの元ネタがあるイラストなのですね。
という訳で、それらの解説を試みてみようかと思います。
まずは1巻から。
トレンチコートに咥え煙草という出で立ち。
いわゆる1930〜40年代あたりにアメリカで書かれた、ハードボイルドスタイルの探偵小説に登場する探偵ですね。ダシール・ハメットとレイモンド・チャンドラーが代表的な作家ですか。
自分のイメージだと、映画の影響も大きいのですが、ハメットの『マルタの鷹』の主役、サム・スペードですね。
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続けては2巻。
パイプです。
これは言わずもがな、『シャーロック・ホームズの冒険』とその他ホームズの作品群ですね。グラナダTV版の、ジェレミー・ブレット演ずるホームズも素晴らしいですよね。吹き替えは露口茂一択ですね。
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3巻はこちら。
・・・元ネタ解説と銘打っておきながら、実はこの巻のは判りませんでした。('A`)
恐らくハードボイルド系の作品だとは思うのですが、判る方がいらっしゃったらご指摘戴ければ幸いです。
気を取り直して、4巻のイラストはこちら。
この巻から、ちょっと趣が変わります。
明確に、映画が元ネタになります。これはアルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』ですね。
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この作品、何故か判らないが凶暴化した鳥に街の人々が次々に襲われる作品なのですが、ストーリーが進んでいくにつれ次第に鳥の数が増えていって(枯れ木一杯に鳥が止まっていたり)、じわりじわりと恐怖が積み重なっていく演出が良いのですな。
詳細は後述しますが、木々津克久さんはかなりヒッチコック作品に傾倒しておられる模様。
5巻のイラストはこちら。
背中に「M」の文字のある人物の姿。
これはドイツ映画界の巨匠、フリッツ・ラング監督が撮った名作サスペンス『M』になります。1931年の作品ですね。
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フリッツ・ラング監督は大作『ドクトル・マブゼ』や『ニーベルンゲン』で世界的な名声を得て、更にはSF映画の大古典『メトロポリス』も監督した、ドイツ映画の黄金期と言える1920年代の代表的な監督であります。『メトロポリス』に登場したアンドロイドは、『スター・ウォーズ』のC-3POのモデルになったという話も聞きますね。
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そのラング監督が撮った『M』は、1929年にデュッセルドルフで実際に発生した連続殺人事件に触発された作品とされています。因みに撮影開始時点では後に「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれる犯人、ペーター・キュルテンは逮捕されていません。
『M』においては、犯人は幼女のみを襲う連続殺人犯になっています。*2幼女に手をかける犯人の描写の演出が実に見事で、ヒッチコック監督にも大きな影響を与えたとのことです。
では次は6巻。
横たわる人物。足のみが見え、顔は判らない。その向こう側に、横たわる人物を見つめるもう一人の姿。
これは、ヒッチコック監督のブラックコメディ『ハリーの災難』です。
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ヒッチコック作品は幾つか観ていますが、『ハリーの災難』はかなり好きな作品ですね。
画像で横たわっているのがハリーですが、実は死んでいます。森の中で、死体となって見つかる。そして近くに住む村の住人の何人かがそれぞれ「もしかして自分がハリーを殺してしまったのでは?」と考えてしまう事情を抱えており、それが発覚しないよう、死体を埋めて隠したり、その死体を掘り返したりということを繰り返し、埋めた人間は「さっき埋めたのに何でここにハリーが!」みたいに焦ったり...と次から次へと予想外の方向へ事態は動いていく、という内容です(随分前に観てうろ憶えの箇所も多いので、細部は違うかも)。
そして最新刊7巻の折り返しはこちら。
こちらもやはりヒッチコック作品。
『北北西に進路を取れ』ですね。
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とある勘違いからスパイと看做され、殺人の嫌疑まで掛けられてしまった広告会社重役のソーンヒルが、自分はスパイではないと証明するために、逃亡しながら「本物の」スパイを追跡する...という内容の痛快娯楽活劇。
画像にも使われている、何もない平原で軽飛行機に襲われる場面が非常に有名ですね。次々とソーンヒルに襲い掛かる危機と、それを回避する機知。そしてラブロマンスも。スケールの大きさでは最近の娯楽大作には及ばないかもしれませんが、非常に練り込まれた脚本なので、見応えは決して劣らないと思います。
と、1巻から最新7巻まで見てきた訳ですが、前述したヒッチコック監督への傾倒というのもお判り戴けたのではないかと思います。
『名探偵マーニー』や『アーサー・ピューティーは夜の魔女』に『ヘレンesp』のヘレンが時折登場するのは、もしかするとヒッチコック監督のカメオ出演の影響があるのかも。*3
それ以前に、ヒッチコック監督作品に『マーニー』っていうのがありますね。この作品からヒロインの名前を取ったのではないかな、と。
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こういった作品群の積み重ね・咀嚼が、『名探偵マーニー』の下地となっているのだろうと考える次第。
といったところで、本日はこのあたりにて。