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先日、諸星大二郎さんの『西遊妖猿伝 西域篇』新刊5巻を購入しました。



西遊記』や原典とも言える『大唐西域記』をベースとしつつ、『水滸伝』や『聊斎志異』といった中国の古典文学も取り入れつつ換骨奪胎し、独自の壮大な物語として紡ぎ上げている『西遊妖猿伝』。諸星大二郎さんのライフワークとも言えるこの作品、現時点では唐を抜けて西域(今で言う中央アジアあたり?)を旅しているところです。
遊牧民突厥との軋轢をはじめとする民族間の対立や、妖人・殺し屋といった面々も絡み合い、玄奘一行の旅路は相変わらず前途多難といった趣。


そんな『西遊妖猿伝 西域篇』ですが、この巻でちょっと興味深いコマがありました。
6巻218ページになります。遊牧民・キルク族が冬営地を下りてきて、このままでは他の遊牧民との放牧地を巡るトラブルが不可避という状況。それを避けるための手段について、孫悟空とトルクーシュ*1が話している場面です。



諸星大二郎西遊妖猿伝 西域篇』6巻218ページ。


孫悟空の台詞、些か唐突な印象を受けます。
まぁこの台詞、説明するのもちょっと恥ずかしい訳ですが、東進ハイスクール講師*2林修氏の決め台詞ですな。2013年の流行語大賞も受賞していますね。
ちょっと時期を外している感もありますが、マンガの場合だと流行っている時期にネームを描いたとしても、雑誌掲載や単行本収録の際にはどうしてもタイムラグが生じてしまいますので、ある程度は致し方ないところかも。時事ネタを作品に取り入れるのは、かなり勇気が要るのではと思います。作品が発表されたときには、既に古くなっているリスクが存在しますからね。*3ましてや『西遊妖猿伝』は歴史もの・伝奇ものというジャンルです。時事ネタとは正反対に位置する作品でもありますし。


あと余談ながら、こういう時事ネタの解説的なものを残すことも、幾許かの意味はあるのかな、とも。
こういう時事ネタとか、その時代特有の言い回しとか表現とか、描かれた時期・時代の空気をかなり色濃く反映させる訳なのですが、それってすぐに判らなくなると思う次第。そうなると、当時の空気・文脈から切り離されてその言葉とか表現とかだけが残り、何が何だか理解できなくなると思うのですな。*4
予備知識ゼロで1970年代やバブル期に描かれた(且つその時代の空気の濃厚に反映している作品)を読んでも、いまいちピンと来ないと思います。


そんなことも考えたので、敢えて恥ずかしいタイトルにしつつ、解説をしてみた次第です。


そういえば、『妖怪ハンター 稗田の生徒たち(1) 夢見村にて』でも「BL」という言葉が使われていたりしました。
因みに稗田礼二郎の教え子・天木薫が見た夢の中で稗田が女体化しており、それが正夢だったらと確認をしたところ、それを目撃した薫の妹・美加が「BL」という言葉を使います。



諸星大二郎妖怪ハンター 稗田の生徒たち(1) 夢見村にて』138ページ。)


こちらですね。
諸星大二郎さんはなかなかにサービス精神が旺盛だなと思います。
といったところで、今回はこのあたりにて。

*1:高昌国に仕えつつ、様々な人脈・パイプを持つ人物。いろいろと裏の顔があるらしく、玄奘一行とも面識あり。

*2:現在はタレント事務所にも所属しているようですね。

*3:そう考えると、毎週のように時事ネタを叩き込んでいた『さよなら絶望先生』とか、凄いよなと。

*4:その極端な例が、ライトノベルの『僕の妹は漢字が読める』になりますね。