独断で選ぶ『ジョジョ』名勝負10選
まがりなりにもマンガの感想とかを書いている以上、1度くらいは『ジョジョの奇妙な冒険』のことを書かねばなるまい、『STEEL BALL RUN』の完結巻も出て『ジョジョリオン』の連載も始まったことだし・・・とか考えつつ、ちょっと仕事のほうが多忙を極めつつあり手が付けられないまま1ヶ月以上が経過してしまいました。
今日を逃すとまた更新が滞りそうなので、多少無理をしてでも書いておこうと思います。
STEEL BALL RUN スティール・ボール・ラン 24 (ジャンプコミックス)
- 作者: 荒木飛呂彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/06/03
- メディア: コミック
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『ジョジョ』は『SBR』も加えると連載期間は約25年、単行本104巻に及ぶ大長編です。これまでに膨大な数の名勝負が繰り広げられてきました。
何れも甲乙付け難い、と言いますか付けること自体が不遜とも思えますが、個人的に強い印象を残している対決を10選び出してみようと思います。では早速始めてみましょう。
1:【ジョセフ・ジョースター対エシディシ】
(荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』9巻45ページ。)
まずは第2部から。名台詞も多く、精神の高潔さが感動を誘うシーザー対ワムウ、或いはジョセフ対ワムウを選びたい気持ちも強かったものの、こちらに軍配を挙げることに。
『ジョジョ』の魅力のひとつに、相手の(或いは読み手の)裏をかく展開・戦略・心理戦といったものを挙げることができるかと思いますが、それが明確に描かれた最初の戦いがこれではないかと思います。上の場面はエシディシに波紋攻撃をするためにロープの結界を張ったものの、それを見抜いたエシディシがロープを切断する場面。そしてその後の展開は・・・是非ご自身で確かめてみてください。
2:【空条承太郎対ダニエル・J・ダービー】
次は第3部。賭け事で勝負して、負けた相手の魂を奪い取るスタンド・オシリス神を操るダービー(兄)と承太郎とのポーカー対決です。
高度なイカサマ技術や心理的な揺さぶり、ブラフの掛け合い、前述した心理戦の、まさしく極致とも言える戦いです。引用した場面はダービーが承太郎を狼狽えさせようと魂のチップをレイズ(上乗せ)するも、間髪入れずに承太郎もレイズするところ。精神的に追いつめられていくダービーの描写が見事です。
荒木先生はデビュー作が『武装ポーカー』ですし、第4部でも丈助と岸辺露伴がチンチロリン対決をしています。心理戦としての賭け事への関心は高いに違いない、と推測します。
- 作者: 荒木飛呂彦
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3:【イギー対ペット・ショップ】
DIOの屋敷に近付く余所者を排除するスタンド使いの鳥、ペット・ショップ。近付いた者であれば人間であろうと動物であろうと問答無用で殺戮する、その様子が実に不気味です。また暗い笑みを浮かべながら(鳥なのに!)殺戮行為そのものを愉悦を憶えつつ徹底的に襲いかかってくる姿、そして何を考えているのか判らないところが、不条理にも近い恐怖を与えているように思います。
引用箇所は、完全に逃げ道を封じられ、唯一残された地下に逃れようと穴を掘るイギーの目の前に現れたペット・ショップ。ホラーですな。
やはりDIOとの対決は入れない訳にはいきません。ジョースター家とDIOとの1世紀にも及ぶ因縁の決着。最後のどんでん返しは、初めて読んだときは衝撃を受けたものです。
そしてそれ以降も、全ての部においてDIOは何らかの形で影響を与えている。やはり『ジョジョ』にとって最も重要なキャラクターはDIOなのだなと強く感じます。悪としての魅力も、恐らくは随一のものでありましょう。とりわけ6部以降は、最終的な敵となるキャラクターの思想みたいなものが深化していると言いますか、自分なりの正義を貫いているところがあり、深いながらも悪の魅力に乏しい面がある訳ですが、それに比べてDIOの行動原理は実に明快、それでいて手段を問わずに且つ圧倒的な力で目的に邁進する姿が実に素晴らしいです。
それ故に、『SBR』での回帰とも言える描写は感慨深いものがありました。
怖い!本気(と書いてマジ)で怖い!
ここから第4部です。まず挙げるのは「山岸由花子は恋をする」のエピソード。山岸由花子は広瀬康一に想いを寄せていますが、それは極度に歪んだかたちで、且つ異常な熱量を持っています。用事があって康一に話し掛けただけの女子クラスメートを、康一に恋愛感情を持っていると思い込み実力で排除しようとしたりします。
何とか康一のことを諦めるように、康一の悪い噂を意図的に流したところ、由花子は康一を理想的な存在にするために拉致・監禁してしまいます。拉致する目的で康一の家の寝室まで来た場面が、上で引用した箇所になります。
今なら典型的なヤンデレとカテゴライズされる性格の由花子ですが、それを1993年の時点で既に描いているのはさすがと言えましょう。しかしそういう捉え方ではなく、むしろ映画『ミザリー』の強い影響を見るべきかとも思います。先月発売された『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』でも、『ミザリー』について熱く語っています。*1
- 作者: 荒木飛呂彦
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自分の父親が殺人鬼と入れ替わっていることに気付いた少年・川尻早人。それが原因で追いつめられたにより発動した吉良吉影のスタンド・キラークイーン第3の能力、バイツァ・ダスト。それは早人に仕掛けられた爆弾で、吉良吉影の正体を探ろうと早人に近付いた者を爆破します。爆破した後に時間は朝に巻戻り、それは吉良吉影が解除しない限り繰り返されます。早人だけが時間が戻る前の記憶を保持しており、巻き戻る前に起こった出来事は、それが起こる前にバイツァ・ダストを解除しない限り必ず発生します。
運命を変えようと奔走するも、どうしても変えることができずに悪い方向に向かってしまう、それを目の当たりにした際の早人の絶望感が実に見事に表現されています。そして、その運命を繰り返した後の早人の覚悟と行動、そして二転三転する展開にも驚かされます。
そういえば、現在(2011年7月時点)でアニメ放映中の『Steins;Gate』を彷彿とさせる設定ですね。案外影響を受けているのかもしれませんな。
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ここから第5部。主観ですが、第5部はスタンド対決が非常に洗練されていた感があります。
まずはこちら、フィレンツェ行き超特急での襲撃です。プロシュート兄貴の名台詞、ペッシの覚醒、ブチャラティの覚悟の行動、驀進する狭い列車内での息詰まる攻防、素晴らしいの一言です。閉鎖的な空間でのスピード感ある戦闘が、サスペンス的効果を高めているように感じます。
8:【ジョルノ&ミスタ対ギアッチョ】
スピード感と言えばこの対決も忘れ難いです。超低温を操るスタンド、ホワイト・アルバムを身に纏い、執拗に追撃をするギアッチョ。超低温の世界においてはあらゆる物質が運動を止めてしまうという、無敵に近い能力です。矢継早に繰り出される、それぞれのスタンド能力を駆使した戦略が見事です。ギアッチョのチート臭溢れる能力もさることながら、ジョルノとミスタの連携と、それによってギアッチョの裏をかいて任務を遂行しようとする様子が痛快です。
全篇を通じて屈指の名勝負と(個人的に)思っているのがこれです。
ノトーリアス・B・I・Gは、本体のカルネが怨念を込めながら射殺されたことで発現したスタンドです。本体が死んでいるため、不死身。そしてその能力は、動きを探知して自動的に攻撃し、攻撃したものを取り込んで成長していくというものです。周囲で最も速く動いているものを優先して攻撃します。
主要メンバーが軒並み重傷を負い、傷の治療が唯一可能なジョルノも両手を失い絶体絶命の状況に。しかし予めジョルノが創り出していたこと、左手を守り抜けば活路は見出せることに、唯一トリッシュが気付きます。そんな中、一度は飛行機の外に追い出したノトーリアス・B・I・Gが再び機内に舞い戻り、ジョルノの左手に襲いかかろうとします。
何としても回収しなければならないが、回収しようと動いたら攻撃される。そしてその目的を果たすため、トリッシュはリクライニングシートを倒しながら、その動きよりも遅く動いて左手まで行こうと試みます。
可能な限りゆっくりと動き、速やかに回収するという、相矛盾する要素を描いたこの場面は、圧倒的な緊張感を伴っています。
10:【スティール・ボール・ラン 1st. STAGE】
(荒木飛呂彦『STEEL BALL RUN』2巻184〜185ページ。)
最後に『SBR』から。「男の世界」とかも捨て難いものの、やはり読んでいて最も高揚感を感じたのは 1st. STAGE です。冒頭で登場した主要キャラクターが、馬を操る技術やその他諸々の技能を駆使しながら他のレース参加者を振り払い、そして最後の直線勝負で一気に雪崩れ込んでくる場面。そこを読んだ際の興奮・陶酔感は素晴らしいですな。物語が進むとテーマ性(みたいなもの)は深く掘り下げられていくのですが、この高揚感が抑えられてしまうのが少し残念ではあります。
と、何とか私的10選をお届けしました。
第1部・第6部を入れることができなかったのが心残りではありますが、とりあえず本日はこのあたりにて。
*1:119〜121ページ。