マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

ポルポの指とは何だったのか

ジョジョの奇妙な冒険』第5部のアニメが放映中です。

ジョジョは第5部が最もお気に入りです。スタンドバトルと頭脳戦・心理戦が実に良い塩梅に組み合わされていて、洗練されていると思うのですね。個人的に、名勝負がいちばん多いのが5部だと思っています。

そんなこともあり、原作は何度も読み返していますが、アニメのほうも楽しみに視聴している次第です。

 

そしてちょうどアニメもやっていることですし、久し振りに『ジョジョ』について何か書いてみようかな、と。

 

f:id:m-kikuchi:20181113232613j:plain

荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』48巻65ページ。)

 

という訳でポルポの指です。٩( 'ω' )و 

今回は、ポルポの指について考えてみたいと思います。

 

 

 

まず、ポルポの指とは何か。周知のことかとは思いますが、まずはそのことについて説明します。

第5部の主役、ジョルノ・ジョバァーナは、ギャング組織の入団試験を受けるため、刑務所に服役している幹部、ポルポのもとへ面会に赴きます。そこでジョルノは、ポルポから渡されたライターの火を24時間消さないまま持ってくるという試験を与えられるのです。

 

その少し前、面接試験が始まった直後の場面が、上の画像となります。ポルポはワイン片手にクラッカーを食べながらジョルノに話し掛けるのですが、その際に、ポルポがクラッカーを指ごと食べているように見えるのです。しかしながらジョルノが一瞬目を離してから再びポルポを見ると、指は失われておらずライターを握っている。

それを目撃したジョルノは、ポルポが何らかのスタンド能力を用いたのでは、という疑念を抱く訳ですね。

 

そして実際ポルポはスタンド使いだったのですが、そのスタンド「ブラック・サバス」の能力は、「ライターの再点火を目撃した人物に「矢」を使って無差別に攻撃をする。攻撃を受けた者はスタンド能力を発現或いは死亡。スタンドは影の中だけを移動できる」というものです。

 

...つまり、ポルポが指を食った(かのような)描写と実際のスタンド能力に、殆ど関連性が見出せない訳ですね。結果として非常に謎の残る描写となっている。第3部における雨の日のJ・ガイルと双璧を成すと言えましょう。

これを布石・伏線の回収漏れだと話のタネにするのは容易い。単行本4巻の「おわびのためのあとがき」を想起する向きもあるかもしれません。「まちがいをするだけ」*1なのだ、と。

 

ただ、それで終わらせてしまうのは安易に過ぎるかもしれない、とも思う訳です。

いみじくも、ポルポはこのような台詞をジョルノに言っています。

 

f:id:m-kikuchi:20181114002559j:plain

フラーという

17世紀の

神学者

言った......

 

『見えないところで

友人の事を

良く言ってる人こそ

信頼できる』

 

(同書48巻74ページ。)

 

という訳で、どうにかこのポルポの指について、ある程度綺麗な説明ができないか試みてみたいと思う次第です。考証と妄想がない交ぜになった、二次創作にも近い奇妙な文章かとは思いますが、その点はご容赦願います。

 

 

まずは、ポルポの行動を追っていくことから始めてみます。

とはいえ、調べられることは限られます。ポルポ(の本体)が作中で登場するのは、ジョルノが面会に行った際だけです。数えてみたところ、僅か29ページしか出てきません。

その限られたページ数のなかでも圧倒的な存在感を放っているのが荒木先生の天才性か、と思ったりもする訳ですが、ジョルノが面会に訪れる場面で強い印象を残す理由のひとつが、登場の仕方です。

 

f:id:m-kikuchi:20181114223306j:plain
f:id:m-kikuchi:20181114223250j:plain

(同書48巻58〜59ページ。*2

f:id:m-kikuchi:20181114223438j:plain
f:id:m-kikuchi:20181114223412j:plain

(同書49巻15〜16ページ。*3

 

上の画像2つはジョルノが最初にポルポに面会に行き、ポルポの部屋の前に立った場面。下の画像2つは、入団試験を終えてライターを持って再びポルポの部屋に面会に赴いた場面です。

どちらも最初、ポルポの部屋の中には誰もいないように見える。

しかしながら、前者はペッドに見えたものが実はポルポの身体であり、後者では壁に見えたのは特注のピッツァです。どちらも、ポルポの巨漢っぷりを見せつける演出となっていますね。

 

しかしながら、このように解釈してみてはどうか。

これらはポルポの指と同じ現象なのだ、と。

 

「ライターを持つポルポ」「寝転がるポルポ」「ピッツァを食べるポルポ」の3つが、「食いちぎられた指」「ベッド」「壁」に見えていた。実際とは異なる見え方をしていたという点において、これらは共通しているという訳です。

つまり、ポルポは錯視・幻覚といった認識阻害系のスタンド能力を用いているという仮説を立てることができるのではと。

ポルポは一人で身動きするのも難儀するような巨体ですので、とりわけ刑務所に入る前には、そういう能力があれば役に立ったのではないか、と考えたりもできますね。

刑務所に入った後でも、ジョルノが危惧したように、スタンド使いを見分ける手段として用いていた、という可能性もありますね。やたらと指を注視していれば必然的にスタンド使いと認定できる訳ですし。

 

 

ただ、その場合1つ大きな問題に直面します。

スタンドは基本的に1人につき1体で、複数の異なる能力を持たないという点です。仮に認識阻害系の能力を持っているとすると、ブラック・サバスの能力は持ち得ない訳です。次はこの点を解決する必要があります。

 

では次に、ブラック・サバスの能力に目を向けてみます。

ブラック・サバスはポルポが渡したライターを再点火すると出現します。そして再点火を目撃した人物を無差別に「矢」で攻撃します。再点火をした用務員のじいさんを死に至らしめ、続けざまにジョルノにも攻撃を加え始める訳ですが、実はもう一人、再点火の瞬間を目撃している。ジョルノの調査でイタリアに来ていた広瀬康一です。

ブラック・サバスは康一君にも攻撃を仕掛けるのですが、ジョルノがそれを防ぐ。その後幾つかのやりとりを経て、康一君はジョルノに次のような説明をします。

 

f:id:m-kikuchi:20181114235226j:plain

「遠隔自動操縦」

だ!

あのスタンドは

......

 

(中略)

 

追跡して爆破とかの

単純な動きしか

できないが

目的をとげるまで

攻撃は やめないんだ

 

(同書48巻164ページ。)

 

康一君のこの説明は、第4部の舞台・杜王町に潜む殺人鬼・吉良吉影のスタンド「キラークイーン」の攻撃手段のひとつ、自動操縦型爆弾「シアーハートアタック」を念頭に置いているのが判ります。

 

f:id:m-kikuchi:20181114235829j:plain

(同書38巻96ページ。)

 

シアーハートアタックの攻撃を受ける康一君。

ここで注目したいのは、これはあくまで自動操縦型の攻撃手段のひとつであり、吉良吉影のスタンド「キラークイーン」は別に存在する、そしてキラークイーンの能力は「触れたものを爆弾にする」という点です。つまり複数の能力(或いは攻撃手段)を持つスタンドだということですね。

 

ポルポのスタンドは、キラークイーンと同系統なのではないか。

再点火した相手を無差別に「矢」で襲うのはキラークイーンにおけるシアーハートアタックに該当し、キラークイーン本体にあたるスタンドをポルポは持っている、という2つ目の仮説を立てることができるのではないか。

 

...と自分で書いておいて何ですが、

実はこの2つ目の仮説、可能性は非常に低いです。(^ω^  )

 

何故かと言いますと、以下のような場面があるためです。

 

f:id:m-kikuchi:20181116222119j:plain

(同書49巻27ページ。)

 

ポルポの最期。

ジョルノのスタンド「ゴールド・エクスペリエンス」でバナナに変えられていた拳銃を齧ったことで元の形に戻り、そのまま銃が発射。拳銃自殺というかたちで処理されます。

この最期の場面でポルポと共に描かれるスタンドが、ジョルノたちに攻撃を加えたブラック・サバスそのものである、という点がポイントです。

仮にポルポが別に本体的なスタンドを持っていて、このブラック・サバスがシアーハートアタック的な攻撃手段だったとした場合、最期の瞬間にブラック・サバスが描かれるのは些か不自然と言えましょう。吉良吉影の最期でシアーハートアタックのみが描かれているようなものですからね。

 

 

という訳で、何か別の解釈が必要となってきます。

ポルポの最期の場面でブラック・サバスが描かれることが自然でありつつ、「遠隔自動操縦による矢での攻撃」とは別の能力を持つことに違和感がない、そういう解釈が。

 

それを(ある程度は)綺麗に説明でき得る存在が近くにいます。

そう、広瀬康一です。

 

康一君は第4部で「矢」に射抜かれ命を落としかけるも、4部主人公の東方仗助スタンド能力により一命を取り留め、それによってスタンド能力「エコーズ」が発現します。そしてスタンド使いになった経緯が特殊故か、様々な経験により成長し、能力も変化するという珍しいタイプのスタンドです。

簡単に書くと、エコーズACT1、ACT2、ACT3の能力は「音を別の物体に染み込ませる」「音の効果を実体化させる」「重くする」となりますね。そして状況に応じて、エコーズはACT1〜ACT3まで、自由に使い分けることが可能です。

 

ところで、矢に射抜かれたとき以外に、康一君が生命の危機に陥ったことがあることを憶えていますでしょうか?

そう、先程言及し、「エコーズACT3」が発現した戦いでもあるシアーハートアタック戦(或いは吉良吉影との戦い)ですね。新たに目醒めたACT3の能力によりシアーハートアタックの無力化に成功するも、吉良吉影自ら康一君の前に姿を現し、「キラークイーン」も併せて攻撃してくることで逆に追い詰められます。名前を知ることに成功し、精神的には康一君が優位に立つものの、その直後にキラークイーンの攻撃により、瀕死の重傷を負ってしまう。

その際、注目して戴きたいのがこの場面です。

 

f:id:m-kikuchi:20181116233047j:plain

(同書39巻49ページ。)

 

康一君が意識を失うと共に、スタンドも消滅します。そして当然といえば当然ですが、消えるスタンドは直前まで使っていたACT3です。

仮に意識を失う直前に使っていたのがACT2であれば、ACT2が消滅する様子が描かれる筈です。

 

 

或いは、吉良吉影を思い起こしても良いかもしれません。

キラークイーン第3の爆弾「バイツァ・ダスト」発現のくだりですね。

 

f:id:m-kikuchi:20181116230235j:plain

(同書45巻21ページ。)

 

一度仗助たちに正体を知られたものの、体格の似ていた別人・川尻浩作に成り替わることで潜伏に成功した吉良吉影ですが、川尻浩作の息子・早人に正体を勘付かれてしまいます。追い詰められた吉良吉影は早人を殺害してしまうのですが、それにより、正体が露見するのが確定的になってしまいます。

絶望の淵に立たされるも、吉良吉影はそれを乗り越えようとします。そのとき、吉良吉影の父親(の幽霊)が所持していた「矢」が吉良の腕を貫き、「バイツァ・ダスト」の能力を得ることになる訳ですね。

 

 

経緯は不明なれど、ポルポは「矢」を所持しているのです。何らかの「成長」により、矢が身体を貫いたことでブラック・サバスの能力を獲得したと可能性はあるのではないかと思います。

 

 

では、まとめてみます。

 

①ポルポはブラック・サバスとは別に、認識阻害系のスタンド能力を持っている(元々はそれしか持っていなかった可能性も)

②何らかの精神的な成長を果たしたことにより、「矢」の力によりブラック・サバスの能力を獲得

ブラック・サバスの能力獲得以降はそちらをメインで使用(「エコーズACT3」獲得以降はACT1・ACT2の使用頻度が減ったみたいな感じ)

 

そしてその場合、最後に1つだけ解決しておくべき点があります。

①が正しい場合、ジョルノがブラック・サバスの攻撃を受けたのちに特注のピッツァ食っているのだから、拳銃で頭を撃ち抜いた場合「認識阻害系」のスタンドが出ていないとおかしいのではないか、という点です。

 

この点に関しては、ジョルノが拳銃をバナナに変えてからポルポが自らの頭を撃ち抜くまでに約1日の時間が空いているので、*4その間に何らかの理由(別の入団試験とか)があってライターを再点火していると考えるのが妥当だろう、と。

 

 

と、このように考えれば、ポルポの指についてある程度綺麗な説明になっているのではないか、と考えます。

といったところで、本日はこのあたりにて。

*1:荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』4巻202ページ。

*2:画像右:58ページ、画像左:59ページ。

*3:画像右:15ページ、画像左:16ページ。

*4:荒木飛呂彦ジョジョの奇妙な冒険』49巻27ページの解説を参照。