マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

『神様ドォルズ』5巻に、ちょっと面白い演出があった

先日、やまむらはじめさんの『神様ドォルズ』新刊を買ってきました。


神様ドォルズ 5 (サンデーGXコミックス)

神様ドォルズ 5 (サンデーGXコミックス)


主人公の枸雅匡平は、故郷の空守村を半ば捨てるように去り、東京で大学生活を送っています。
空守村では「案山子」と呼ばれる超常的な力を持つ人形が祀られており、案山子を操る能力を持つ家系の枸雅家と日向家は村内で対立しています。そして案山子を操る資格を持つ人物は「隻」と呼ばれます。
匡平はかつて「隻」でしたが、ある事件を機にその資格を失い、現在は妹の詩緒が隻を務めています。


匡平が隻の資格を失った同じ事件が原因で幽閉されていた阿幾が村を脱走し、それを追う詩緒が兄の元へ来たところから、物語は動き始めます。そして匡平と阿幾の過去や「案山子」をめぐる村の両家の思惑等が複雑に絡み合い、謎が少しずつ明かされながら話は進んでいきます。
5巻では新キャラクターも登場し、新たな展開を見せようとしていますね。


と、概略とかはこのくらいにしておいて、この巻でちょっと面白いな、と思った演出(というか描き方というか)がありました。どういうものかと言いますと、同じコマの中で2組の会話が同時に為されているというもの。
26〜28ページが該当します。


器師(案山子の修理・メンテナンスを行う仕事)の靄子が空守村から東京に来て、日々乃(匡平の同級生・親が空守村出身。諸事情あって匡平と詩緒は日々乃の家に住んでいます)の家で食事をする場面です。
そこで靄子は詩緒に、由良子から預かった荷物を渡します。由良子とは靄子の妹で詩緒を異常なまでに可愛がっており、詩緒はそれを非常に苦手としている訳です。
では実際にその場面を観てみましょう。




やまむらはじめ神様ドォルズ』5巻26ページ。)


恐る恐る由良子の荷物を開ける詩緒が、右後方に描かれます。
その一方で、左前方に位置する靄子と日々乃は、まったく別の会話を始めます。




(同ページ。)


続けてのコマがこちら。
靄子と日々乃が右前方、匡平と詩緒が左後方に変わっているのがポイントです。
この食事のシーンでのメインが、靄子と日々乃の会話に切り替わったことが判ります。





(同書27ページ。)


東京案内を日々乃にお願いする靄子が描かれています。その際のちょっと恥じらっている表情がまた素晴らしいと思う訳です。
そして左後方に目を転じてみると、荷物の包みの中から出てきた「由良子人形」にドン引きしている詩緒と匡平が描かれています。
そして思わず人形を叩き付ける詩緒。この表情もまたいいですな!( ゚∀゚)


その話はひとまず置いておきまして、この時点では靄子・日々乃、詩緒・匡平はまったく別々に話をしている点に注目です。




(同書27ページ。)


そしてこのコマ。
2組の会話はやはり別々に為されていますが、俯瞰ショットになったことで、どちらの会話がメインとかいうものがなくなっています。このコマにおいてはどちらの会話もフラットに扱われている。




(同書28ページ。)


次のページに移ると、再び視線が変更されます。匡平が右手前、靄子が左奥になっていますね。
この一連の視線の変更を映画で喩えると、パンフォーカスでピントを全体に合わせたまま、日々乃→靄子→(俯瞰)→匡平とぐるりと廻った感じでしょうか。


そして、匡平が靄子を冷やかしているのにも注目ですね。本来匡平は会話には加わっていないのです。
前ページでの俯瞰ショットによって、靄子・日々乃間の会話に加わることへの違和感(唐突な印象)が薄れているように感じます。詩緒への台詞が、あたかも靄子・日々乃の会話に組み込まれているように見える。そのまま自然な流れで、匡平が会話に加わっているという訳です。


カメラワークと言いますか視線誘導と言いますか、そういったものを巧く使っているなと感じました。
・・・あくまでも素人目線での考えなので、的外れなことを言っている可能性もありますのでその点はご容赦くださいな。(´ω`)


という訳で今日はこのあたりにて。