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時折マンガの話をします。

「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」簡易レポ

1月6日〜2月4日にかけて、上野の森美術館で「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」が開催されています。

 

 

生賴範義氏については、知っている方は自分より遥かに詳しいかと思いますし、名前を知らないという方も、ほぼ間違いなく一度はどこかで作品を目にしたことがあるのではないかと思います。

自分の場合は、お名前を意識したのは比較的最近ですが、最初に接した作品は何かと思い返してみると、光栄(現コーエーテクモゲームス)が出したファミコン版『蒼き狼と白き牝鹿 ジンギスカン』や「ヤング・インディ・ジョーンズ」シリーズのノベライズ版表紙イラストになります。

 

ゲームの分野では光栄・コーエーSLG(『信長の野望』『三国志』シリーズや『大航海時代』『ランペルール』etc)のパッケージ、映画にハマれば『スター・ウォーズ』『ゴジラ』に『EAST MEETS WEST』のイラスト、SFを読み始めたら『銀河パトロール隊』に最近kindleで購入した『ハイペリオン』シリーズの表紙、マンガを読み始めた流れで大伴昌司の大図解シリーズ良いねと思ったら実はそこにも多数のイラストを提供している...と、緩くではありますが何らかのかたちで生賴範義氏の作品には接し続けてきている訳です。

 

2014年に宮崎で開催された展覧会「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」(今回上野の森美術館で開催されているのはこれの巡回展というかたちになります)を機に本格的な再評価が始まった、という印象があります。同年には久しぶりの新作画集『緑色の宇宙』も刊行されています。

翌年の「生賴範義展 II 記憶の回廊」開催直後、2015年10月に、生賴範義氏は永眠されたのですが、「記憶の回廊」以降の図録は amazon でも販売されていて、長らく絶版・プレミア化が続きまとまったかたちで氏の作品に接することが難しかった状況は劇的に改善されてきています。

 

生?範義? 記憶の回廊 1966-1984

生?範義? 記憶の回廊 1966-1984

 
生?範義? THE LAST ODYSSEY 1985‐2015

生?範義? THE LAST ODYSSEY 1985‐2015

 
生?範義 拾遺集

生?範義 拾遺集

 

とは言えやはり現物をこの目で見てみたい、宮崎は些か遠い...という状態が続いていたため、今回の巡回展は非常に楽しみにしていた訳です。

前置きが長くなりましたが、ようやく昨日行くことができたので簡易レポを書いておきます。

 

 

上野駅公園口を出た横断歩道を渡ると、さっそく案内板が。

 

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道なりに歩いていくと、すぐに上野の森美術館に到着します。

美術館前の写真を撮り忘れたのは、自らのセンスのなさということでご容赦をば。(´ω`)

 

 

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【2月2日追記】再訪したので美術館前の写真を追加しました。

 

チケット購入してすぐの箇所から撮影OKだったので、じっくりと堪能しつつカシャカシャと撮影開始。

 

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最初を飾るのは新聞広告イラストの数々。

吉川英治作品を彩る武将・英雄から現代の政治家・経営者まで幅広く、そして人物の内面が浮き彫りになってくるかのような精緻を究めたイラストの数々。モノクロの人物画の場合、ほとんど点描とカケアミ線だけで描いている模様。

 

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そして角を曲がると屹立している「生賴タワー」。

生賴範義氏が表紙イラストを手がけた雑誌・単行本・文庫が天高く積み上げられている光景は圧巻です。

 

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ハヤカワSFとか。

下のほうに少し見えるのは、白泉社文庫版『スケバン刑事』です。

1990年代に漫画文庫の出版ブームがあったのですが、その時期の特徴として、高めの年齢層を意識したのでしょうか、表紙が実際の写真や写実的なイラスト(マンガの作者とは別の方がイラストを担当している)というケースが少なからず見受けられました。前者だと『ドカベン』、後者だと『ブラック・ジャック』や『ガラスの仮面』とかが該当します。『スケバン刑事』もその流れを汲んだものと捉えることができるかと思います。

 

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【2月2日追記】『スケバン刑事』文庫版の写真が見切れていたので追加しました。

 

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軍艦イラストとか、『幻魔大戦』シリーズ表紙とか。

 

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自分の最初期の生賴範義体験、「ヤング・インディ・ジョーンズ」シリーズのノベライズ。『国境の銃声』とか、夜通し読み続けた記憶がありますね。

 

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江戸川乱歩作品にスポーツ選手の本、八切止夫氏や南山宏氏によるオカルト色の濃い書籍まで、実に多岐にわたる題材の数々。初の画集『生賴範義 イラストレーション』に収録された「生活者としての絵描きは肉体労働者にほかならぬ。」の、「主題が何であれ、描けないと云うことは出来ない。生活者の五分の魂にかけて、いかなる主題といえども描き上げねばならない。」という一文を思い起こさせます。

 

タワーの周囲には映画ポスターが。

 

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ゴジラシリーズ。

ゴジラは赤く塗れ、と言ったのは海洋堂宮脇修氏だったかな?

 

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【2月2日追記】隣に展示されているゴジラシリーズのポスター2枚を追加。

 

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2006年版『日本沈没』。

このポスターに関しての、樋口真嗣監督の述懐が非常に面白い。図録に収録されていますので是非ご一読を。

 

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グーニーズ』。これも生賴範義氏のイラストです。

ファミコン版もやったなぁ、と遠い記憶が蘇ってきました。

 

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【2月2日追記】ファミコン版『グーニーズ』に言及した流れで、光栄(現コーエーテクモゲームス)作品のポスターを追加しました。 この存在感・迫力、堪らないですね。

 

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【2月2日追記】もうひとつゲーム繋がりということで変わり種、『ドラゴンクエスト ファンタジア・ビデオ』のポスターです。自分も詳しくは知らないので wikipedia 頼りになりますが、サイレントドラマとのこと。岡田斗司夫さんが企画したとのことで、ガイナックスが製作協力に名を連ねていたり監督が赤井孝美さんだったりしています。勇者がDQ3っぽさがありつつもあとの2人がDQ2サマルトリアの王子ムーンブルクの王女の容姿をしているのはじっさいそういう内容とのこと。ロト三部作の設定を混ぜているようです。

 

 

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あまりにも有名な、『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』のポスター。

主要登場人物・キャラクターを中心に集めて描きつつ、意図的に遠近法を無視した構図。画面上部に大写しで描かれる、作品を象徴するような人物(この場合はダース・ベイダー)。完璧ですね。

 

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逆襲のシャア』のポスターも手掛けています。

 

その後しばらくのあいだ、撮影NGのエリアが続きます。

映画の元絵とか小松左京作品・平井和正作品関連の展示が続きますが、1箇所だけ撮影OKの場所が。

 

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平井和正幻魔大戦』シリーズに登場するサイボーグ戦士・ベガの立像。

生賴範義氏のイラストを元に当代屈指のイラストレーター・寺田克也氏が細部を描き直し、『シン・ゴジラ』の造型を手掛けた竹谷隆之氏が立体化とのこと。先に触れているように生賴範義氏は『ゴジラ』シリーズのイラストも手掛けていますし、生賴範義・寺田克也両氏共にアルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』の表紙イラストを担当しています。繋がっているのだな、としみじみ感じますね。

 

 

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【2月2日追記】別角度からのベガ立像写真を追加しました。

 

そして人物画・戦記画(軍艦)のエリアは撮影NGとなりまして、驚異的な点描技術を堪能したのち、「SFアドベンチャー」エリアへ。

 

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雑誌「SFアドベンチャー」の表紙を飾った、力強い筆致で描かれる女神たち。

91人の女神をすべて収録した画集『神話 THE BEAUTIES IN MYTHS』がこの展覧会に合わせるようなかたちで復刻されたので、これも早いうちに買っておかないとな、と思っています。

 

神話 THE BEAUTIES IN MYTHS/NEW VERSION

神話 THE BEAUTIES IN MYTHS/NEW VERSION

 

 

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【2月2日追記】上の画像にも写っていますが、画集『神話 THE BEAUTIES IN MYTHS』の表紙も飾っているフレデグンデの素描です。顔の部分を(恐らく)描き直してテープで貼り付けているのが判りますね。こういう手順というか、完成に到るまでの軌跡が朧げに見えてくるのが興味深く感じたりします。   因みに画集ですが、再訪時に購入しました。٩( 'ω' )و 

 

 

 

そして最後を飾る「オリジナル作品・油絵」のエリア。

やはりそこの目玉となるのは、東京初公開となる大作『破壊される人間』かと思います。

 

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幼少期の戦争体験を根底にした、100号キャンバスに濃密に塗り込められた死のモティーフ。

串刺しにされた人型の何か。

キャンバスに溢れる骸骨。

溶けて崩れゆく肉。

圧倒的な存在感を放っています。

 

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【2月2日追記】オリジナル作品の写真を幾つか追加。 他の作品も併せて見ると、先に言及した戦争体験が題材に大きく影響を与えているのだなと感じられます。

 

 

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最後に自画像3点、そして絶筆となった空母「飛龍」の描きかけのイラスト。

 

 

生賴範義氏の仕事の全貌を捉える、非常に密度の濃い展覧会でした。

それでいて、未だ全容は明らかになっていないようで、驚異的な仕事量・作品数であったことが窺い知れます。

 

余裕があればもう1回くらいは行きたいなと思いますし、2014年以降に開催された展覧会の巡回展にも期待したいところです。

といったところで、本日はこのあたりにて。